人口減少や施設の老朽化を背景に、生活排水の処理を集合処理から各戸設置の浄化槽へ転換する自治体が急増している。全国で120近くの自治体が転換の意向を示しており、政府も下水道法を改正して手続きを簡略化したが、多額の設置費用や維持管理体制の構築が大きな課題として残っている。
全国初の転換事例となった静岡県南伊豆町入間地区
伊豆半島の南端、静岡県南伊豆町の入間地区では、2023年に生活排水の集合処理施設が廃止され、各戸に浄化槽を設置する個別処理方式へ完全に切り替わった。これは環境省によると全国初のケースとなる。かつて海水浴客でにぎわった同地区の処理施設は1986年に建設されたが、人口減少と民宿の廃業が重なり、老朽化した施設の改修には約1億4000万円もの費用が必要となっていた。地元区長の山本徳範さん(70)は「人口が減り続ける中、早めに切り替えたのはいい判断だった」と語る。町は過疎対策事業債を活用し、約1億5000万円をかけて68基の浄化槽を整備した。
人口減少で揺らぐ「独立採算制」の限界
生活排水の集合処理は、住民からの使用料収入で経費を賄う「独立採算制」が原則だ。しかし、人口増や市街地拡大を前提とした従来の整備計画は、急速な人口減少によって維持が困難になっている。使用者が減れば、残る住民の負担増は避けられない。老朽化した下水管の劣化による道路陥没事故も全国で相次いでおり、自治体にとって集合処理の維持は大きな重荷となっている。能登半島地震で被災した石川県珠洲市も、一部地域の下水道復旧を断念し、浄化槽への転換を決めた。徳島県小松島市では、未整備区域での新規下水道計画を取りやめ、浄化槽による処理へ方針を転換している。
自治体の意向調査に表れる転換の広がり
集合処理から個別処理への転換を検討する動きは全国に広がっている。総務、国土交通、農林水産、環境の4省が実施した調査によると、2023年7月時点で全国97自治体が転換の意向を示していたが、約1年後の2024年8月には32都道府県の116自治体へと増加した。特に福島県で14自治体、北海道で10自治体が意向を示しており、岩手、静岡、長野の各県でも7自治体が検討中だ。こうした潮流を受け、政府は7月に下水道法を改正し、個別処理へ移行する際の下水道事業廃止手続きなどを明確化した。
多額の設置費用と維持管理の課題
転換には依然として高いハードルが存在する。南伊豆町の事例では、町全域への個別処理導入には約50億円もの費用が必要と試算されており、町の一般会計予算と同規模の財政負担が重くのしかかる。担当者は「さらなる財政支援がないと難しい」と窮状を明かす。浄化槽導入後は、適切な保守点検体制の維持や、不要となった下水管の撤去、新たな排水経路の確保といった技術的・実務的な課題も浮上する。
生活排水処理の転換には多くの課題がある。浄化槽の設置費用が自治体の財政を圧迫するほか、保守点検を適切に行う管理体制の確保や、不要となった既存下水管の撤去と排水経路の整備が必要となる。また、国による転換費用や財源、地域の線引き基準に関する指針の不足も課題として挙げられている。
専門家が説く「ベストミックス」の重要性
集合処理と個別処理のどちらを選択するかについて、公益事業論を専門とする近畿大学の浦上拓也教授は、地域特性に応じた「ベストミックス」を探る必要があると指摘する。浦上教授は「下水の使用料は人口密度によって異なる傾向がある」と述べた上で、国に対して転換費用や財源、地域の線引き基準を示す指針を早急に策定し、自治体の課題へ対応するよう求めている。今後、人口減少が進む地域において、生活排水処理のあり方は、公的負担と住民負担のバランスを巡る深刻な再編を迫られることになる。