北朝鮮の金正恩総書記の健康不安説や死亡説が海外のSNS上で急速に拡散したことをめぐり、bbc.comは20日、北朝鮮メディアが公開した公開写真とその背景を報じた。米国在住の中国反体制派が主張した昏睡状態や北京搬送説に対し、韓国当局や現地周辺では異常は確認されていない。
海外SNSで拡散した金正恩氏の死亡説と北京搬送の主張
北朝鮮の最高指導者である金正恩総書記が脳出血で倒れ、死亡したとする情報がインターネット上で飛び交った。Yahoo!ニュースのエキスパート記事によると、騒動の発端となったのは米国在住の中国反体制派活動家である謝万軍氏がX(旧ツイッター)に投稿した内容である。謝氏は、金氏が重度の脳出血で意識を失い、北朝鮮の医療環境では対応できずに中国・北京の病院に緊急搬送されたものの死亡したと主張した。さらに、遺体は秘密裏に北朝鮮へ戻され、当局がその死を隠蔽しているという。今回の噂では、金氏の死後に妹の金与正朝鮮労働党総務部長が実権を掌握し、中国が娘のジュエ氏の権力継承を支援するため平壌に9000人の兵力を派遣したという詳細な筋書きまで登場した。北朝鮮情勢においては、こうした裏付けのない臆測や情報が過去にもたびたび浮上してきた経緯がある。

労働新聞が公開した視察写真と韓国当局の見解
こうした死亡説が拡散した数時間後、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は金正恩総書記が平壌で洋服や靴の展示会を視察したとする写真を掲載した。bbc.comが伝えたところによると、42歳の指導者は娘のジュエ氏やいつもの側近たちと共に、女性用コートや子ども用の靴を見て回る様子で、健康不安説が囁かれた人物としては驚くほど元気な姿だった。正確な撮影時期の特定は困難であるものの、韓国の情報機関である国家情報院は聯合ニュースに対し、今回の死亡のうわさを裏付ける情報は何も得ていないと述べた。北朝鮮の国境周辺や在外公館の周囲でも、難民の流入や中国による国境警備の強化といった急変を示す異変は今のところ一切確認されていない。過去の2020年にも心臓血管手術後の死亡説が流布されたが、その直後に金氏が公の場に姿を現して誤報であることが判明しており、今回も同様のパターンをたどっている。
繰り返される死亡説の背景にある後継者問題の不確実性
最高指導者の健康状態に関するうわさが絶えない最大の理由は、北朝鮮における後継体制の不透明さにある。金一族による3代の統治が続く中、初代の金日成氏から金正日氏への権力移行は数十年の準備を経て比較的円滑に進んだ。これに対し、金正恩氏の台頭はより短期間で進められ、2008年に前総書記が脳卒中で倒れた後に矢継ぎ早の昇進を経て権力を固めた経緯がある。韓国の情報機関は現在、金総書記が13歳前後とされる娘のジュエ氏を後継者として育てている可能性があると分析している。しかし、北朝鮮で女性指導者が誕生した前例はなく、ジュエ氏は正式な後継者として指名されていない。指導者の肥満体型やヘビースモーカーとしての生活習慣、心血管疾患の家族歴といった要因も、健康不安説に一定の現実味を与える材料として機能している。
情報のブラックホールと周辺国が抱える安全保障上の懸念
北朝鮮は依然として外部からの情報が極めて入りにくい情報のブラックホールであり、偽情報の標的になりやすい構造を抱えている。指導者と定期的に接触できる人物はごく一部に限られており、情報機関でさえ信頼できる全貌の把握に苦労している。そのため、謝万軍氏のような人物による未確認の主張が注目を集める一方で、政権自身が混乱をあおる目的で意図的に情報を操作している疑いも指摘されている。金氏に万が一の事態が発生すれば、北朝鮮の核兵器管理問題や政治的空白による国内の混乱は避けられない。それは北朝鮮の動向を注視する韓国、約2万8000人の米兵を駐留させるアメリカ、そして国境を接する中国にとって重大な安全保障上の課題となる。最高指導者への権力集中という構造的な弱点を抱える中、各国の情報機関は今後も動向を厳しく監視し続ける構えを見せている。