フィリピン外務省は2026年10月19日、中国の井泉駐フィリピン大使を召喚し、同氏が中国はフィリピンと戦えば「楽勝」だと発言したことに対して深刻な懸念と強い異議を表明したと、Yahoo!ニュースなどが報じた。一連の発言をめぐっては、同国上院議員らが国外追放を求めるなど、両国間の緊張がさらに高まっている。
中国大使の「楽勝」発言と外務省による公式召喚
フィリピン外務省の発表によると、マリア・テレサ・ラザロ外相は19日の会談で、中国の井泉駐フィリピン大使に対し、武力行使をほのめかした10月15日の公式発言は「挑発的で容認できない」と直接伝えた。ロイターの報道によれば、同外相はこうした敏感な問題について、確立された外交ルートや二国間メカニズムを通じて対処されるべきだと強調している。フィリピン側は、必要と判断した場合にさらなる外交措置を講じる権利を留保する姿勢を示しており、両国間の緊密な雰囲気が急速に悪化している状況が浮き彫りとなっている。
両国間で食い違う発言の意図と外交的な釈明
井大使は召喚を受けた19日夜、中国大使館の公式フェイスブックページへの投稿を通じて、自身の発言の趣旨について「われわれには能力があるが、武力を行使する意図はないということだ」と釈明した。さらに、中国は平和を愛する友人であり親しい隣国であるため、武力に訴える必要はないと主張している。しかし、佐賀新聞の報道によると、フィリピン沿岸警備隊のタリエラ報道官は「平和を愛すると繕ったところで明らかな威嚇であることに変わりはない」と非難し、マルコス大統領も16日に「まさに脅しのように聞こえる」と強く批判している。
国防相の発言を発端とするトラブルメーカー論争
今回の対立は、フィリピンのギルベルト・テオドロ国防相が14日に中国を地域の「トラブルメーカー」と呼んだことが発端となっている。サラ・ドゥテルテ副大統領の発言に異議を唱える形で飛び出したこの指摘に対し、井大使は翌15日のイベントで「この地域のような中国の隣国を持てて幸運に思うべきだ」と反発した。佐賀新聞によると、この一連の応酬の中で井大使が「戦えば容易に勝つ」と述べたことが、現地での反発を決定づける形となった。

政治家によるペルソナ・ノン・グラータ指定の動き
井大使の発言を受け、フィリピン国内では強硬な措置を求める声が上がっている。AFPBB Newsなどの報道によると、アーウィン・トゥルフォ上院議員の事務所は19日、井大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」に指定するよう求める決議案を提出した。少なくとも2人以上の上院議員らが政府に対して同氏の国外追放を求めており、政治的な圧力が日増しに強まっている。

台湾問題を巡る中国側の強い懸念とフィリピンの姿勢
中国政府は、フィリピン側が台湾をめぐって「好ましくない動き」を見せていると重ねて非難している。井大使は会談の中で、フィリピンが中国の核心的な懸念を尊重しないのであれば、どうして中国からの尊重を期待できるのかと疑問を呈した。これに対し、中国外務省の毛寧報道局長は19日の定例記者会見で、フィリピンの一部の人物が中国に関する問題を悪意を持って騒ぎ立てていると主張し、無責任な言動を抑制するよう求めている。
南シナ海における領有権問題と今後の展望
2016年にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の「歴史的権利」に国際法上の根拠がないと判断したものの、中国はこれを拒絶し南シナ海のほぼ全域で領有権を主張し続けている。米国の同盟国であるフィリピンとの間では、これまでも船艇の衝突などを巡る激しい応酬が繰り返されてきた。今回の外相召喚と大使による威嚇発言を契機として、領有権を巡る両国の亀裂がいかに修復されるのか、あるいはさらなる外交的摩擦へと発展するのかが今後の最大の焦点となる。