2013年に「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長が射殺された事件で、京都地裁は16日、殺人などの罪に問われた田中幸雄被告に対し、無罪を言い渡しました。直接的な証拠が欠ける中、裁判長は「被告が実行犯であることに合理的な疑いをいれる余地がある」と判断しました。
京都地裁が下した無罪判決の根拠
16日に開かれた判決公判で、京都地裁の西川篤志裁判長は、田中幸雄被告(59)に対し無罪(求刑無期懲役)を言い渡しました。検察側は、特定危険指定暴力団工藤会系組幹部である被告が、氏名不詳者らと共謀し、2013年12月19日早朝に京都市山科区の同社本社前で大東隆行さん(当時72)を銃撃し、失血死させたと主張していました。しかし、西川裁判長は判決理由において、検察側の提示した状況証拠を積み上げても「被告が犯人でないならば合理的に説明することができない事実関係が含まれていない」と指摘し、実行犯であると断定するには至らないと判断しました。
現場のたばこの吸い殻とDNA型の評価
検察側は、現場付近に残されたたばこの吸い殻に付着していたDNA型が被告と一致したことを、犯行を裏付ける重要な証拠としていました。判決では、この吸い殻が被告によって吸われたものであることは認められました。しかし、事件は周到に計画されたものであり、犯行グループが捜査の目をそらすために別の人物が吸った吸い殻を現場に持ち込んだ可能性を否定できないと指摘しました。被告がヘビースモーカーであるという背景もあり、現場での発見事実のみでは、被告が実行犯であることを決定づける証拠にはならないと結論づけています。
盗難バイクと軽乗用車を巡る証拠の不整合
事件に使用された疑いがある2台の盗難バイクについても、検察側の主張と判決の判断は分かれました。検察側は、移動用に用意されたバイクのうち1台の盗難に軽乗用車が関わっており、その車を被告が知人から借りたと主張していました。これに対し判決は、2台のバイクはそれぞれ別の人物が盗んだ可能性が十分あると指摘しました。また、検察側が被告の使用した車と結びつけた軽乗用車についても、特徴が一致する車両が全国に多数存在するため、同一の車両であると断言することはできないと退けました。
検察側と遺族の受け止め
判決を受けて、京都地検の森田昌稔次席検事は「主張が受け入れられず残念だ。判決内容を精査し、上級庁と協議の上、適切に対応したい」とのコメントを発表しました。被害者である大東さんの遺族は、代理人弁護士を通じて「予期せぬ判決で非常に落胆している。極めて不当な判決で、検察庁に控訴するよう強く申し入れた」と強い不満を表明しています。高裁での審理を通じ、納得できる結果が出ることを望む姿勢を示しました。王将フードサービス側は、裁判が継続する可能性があるとして、判決内容へのコメントを控えています。
「人生が変わる」被告の主張と刑事裁判の原則
無罪判決を受けた田中被告は、弁護人を通じて「犯人と思われた時点で人生が変わるし、失ったものも戻ってこない」とのコメントを出しました。2025年11月の初公判で、被告は「私は決して犯人ではありません」と全面的に争う姿勢を示していましたが、被告人質問には応じませんでした。近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)は、今回の判決について「『疑わしきは被告人の利益に』という刑事裁判の原則に従ったものだ」と解説しています。また、検察側が犯行の動機を明確に示せず、犯行の核心部分を裏付ける「決定打」を欠いていた点が無罪の一因になったと分析しました。
今後の控訴審に向けた見通し
今回の事件は、暴力団が関与している疑いがあることから、裁判員の安全に配慮し、裁判官のみで審理が行われました。検察側は判決を精査した上で上級庁と協議し、控訴する方針を固めています。今後、舞台を高等裁判所に移し、状況証拠の評価や犯行の全容解明が再び争点となる見込みです。死後10年以上が経過した現在も、事件の真相解明を求める遺族の願いと、司法による事実認定の難しさが浮き彫りとなっています。