2025年に日本国内で発生したクマによる人身事故の被害者は統計開始以来最多の238人に達し、死亡者も13人を数えた。生活圏への侵入が問題視される中、Number Webは、3人が死亡し日本山岳史に残る「福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件」の全貌に迫る書籍『羆を撃つ』の抜粋記事を配信し、当時現場となった北海道の山中で起きた知られざる遭遇の事実を伝えている。
福岡大学ワンダーフォーゲル部を襲った1970年のヒグマ事件
1970年7月28日付の北海道新聞は、日高山系を縦走中の福岡大学ワンダーフォーゲル部員5人がクマに襲われたと報じた。Number Webの伝えたところによれば、事件現場となったのはアイヌ語で神である熊が崖から転がり落ちるところを意味するカムイエクウチカウシ山である。25日午後から27日朝にかけて、逃げる学生たちに体長2メートルを超える巨大なヒグマが執拗につきまいり、鋭い爪を振るって3人が行方不明となった。家族や関係者の祈りも届かず、惨事は最悪の結末を迎えることになった。この悲劇的な事故については、同好会による「北海道日高山脈夏季合宿遭難報告書」をはじめ、専門家による数々の検証がおこなわれてきた。
北海学園大学グループが遭遇したもう一つの恐怖と明暗
カムエク山には福岡大学のパーティだけでなく、北海学園大学や帯広畜産大学、鳥取大学、中央鉄道学園といった複数のグループが入山していたとNumber Webは報じている。中でも注目されるのは北海学園大学のグループである。彼らは福岡大学のメンバーが襲撃される前日、同じ個体とみられるヒグマに遭遇していた。襲撃を受けながらも、北海学園大学のメンバーは犠牲者を出すことなく難を逃れている。同じ山域で起きた二つの出来事において、一方のグループが悲劇に見舞われ、もう一方が生還を果たした明暗の分かれ道はどこにあったのか。
過去の教訓を現在の人身事故対策にどう活かすか
2025年に至るまでクマによる被害は全国で深刻化しており、人里への出没や人的被害は過去最悪のペースで記録を更新している。1970年のカムエク山で起きた福岡大学の遭難事件は、野生動物との遭遇が持つ極限の危険性を現代に伝える重要な事例である。北海学園グループとの明暗を分けた要因の検証や関係者の証言は、今後の人身事故を防ぐための貴重な教訓として参照され続けていくことになる。