元TBS記者の小林拓馬氏が著書『テレビのニュースはなぜ偏るのか』で、テレビマンが抱くエリート意識と偏向報道の実態を明かした。プレジデントオンラインの報道によると、作り手が「大衆は何もわかっていない」と思い込み、視聴者を見下す姿勢が独自のニュースの歪みを生んでいるという。
元TBS記者が明かすマスコミ批判への本音と当時の思い込み
小林拓馬氏は、TBS在籍当時について「恥ずかしながら私自身、マスコミ批判に対して『大衆は何もわかっていない』と思い込んでいていた」と振り返る。マスコミに対してオールドメディアやマスゴミという批判的な視線を向ける人は少なくないが、現場の作り手側には自分たちの報道が正当であるという強固な自負があった。
先輩ディレクターからは「偏差値50以下でも分かる内容にしろ」と指導されていたという。視聴者に分かりやすくニュースを伝えることは報道の使命である一方で、その背景には無意識の「視聴者を見下す」姿勢が隠されていたと小林氏は指摘する。
有名大学出身者が主導するニュース制作現場の構造
マスコミの社員は原則として全員が大学を卒業しており、キー局や制作会社のスタッフには有名大学の出身者が名を連ねる。特にTBSは東京大学出身の社員が多いことで知られており、小林氏が在籍していた当時の「news23」でもプロデューサーや編集長は共に東大出身だった。一橋大学や慶應大学などの卒業生も多く、こうした高学歴の経歴がテレビマンに特有のエリート意識を醸成している。
学歴に裏打ちされた「自分たちは特別である」という深層心理が、複雑な事実を単純化して伝える歪みにつながっている。新型コロナウイルス感染拡大の時期には、不要不急の外出を控えるべきと報じる一方で、スタッフルームでお弁当を食べながら会話をするなどのダブルスタンダードも生じていた。

小池都知事と菅総理を巡るニュース原稿の改変事例
現場での報道の歪みは、実際のニュース制作の場でも発生していた。小池百合子都知事が菅義偉総理に対して新型コロナウイルス対応の申し入れを行ったというニュース原稿の執筆を任された際、小林氏は両者の「犬猿の仲」と呼ばれる因縁の人間関係を背景として盛り込んだ。
しかし、その事実を知らなかった編集長は「マニアックすぎるし視聴者は興味ないよ」と、その部分をバッサリとカットした。その結果、菅総理の不十分な対策に対して小池都知事が苦言を呈しているという、対立構図を強調した内容へと原稿が変えられてしまった。
「自分たちは左派ではない」と考えるテレビマンの認知のズレ
プレジデントオンラインの報道によると、テレビマンのほとんどは自分が「偏向報道」をしているという自覚を持っていない。むしろ「自分たちこそが中道であり、公平な報道をしている」と思い込んでおり、世論の方が間違っていると考えている。
「news23」に異動した直後の飲み会では、新型コロナ対策の重要性を報じるとインターネット上で左派的だと批判されることについて、編集長が「なんで左派扱いされるんだろうね。俺たち別に左派じゃないのに」と不思議そうに語っていたという。当時、野党側が中国的な厳しい対策を理想化する主張を展開していたのに対し、与党は規制に抑制的で経済活動を重視する方針をとっており、ネット上の批判は的を射たものであったが、当事者にはそのズレが認識されていなかった。
自省の欠如と加速する偏向報道の行方
エリート意識に囚われた現場では、世論から乖離しているという指摘に対しても「それでいい」という認識が優先され、自省の邪魔をする。その結果、組織としての自浄作用が働かず、偏った報道が是正されるどころか、むしろ偏向がさらに加速していく構造ができあがっている。
こうした構図が今後どのようにメディアの信頼回復に影響を与えるのか、テレビ局の報道姿勢の変化が引き続き注目されている。