中東の紛争がペルシャ湾周辺の海洋環境に深刻な打撃を与えている。米国とイスラエル、イランによる攻撃が石油施設などに命中し、大規模な原油流出が発生。宇宙からでも確認できる油の帯が広がり、アラブ首長国連邦(UAE)では海岸が一時閉鎖されたと、CNN.co.jpが報じた。
ペルシャ湾で急増する石油汚染と宇宙から見える油の帯
ここ数カ月、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ要衝ホルムズ海峡では、貨物船や石油タンカーが攻撃の標的となっている。米サウスフロリダ大学の衛星海洋学者グループに所属するブライアン・バーンズ氏によると、攻撃を受けた大型船舶からは数百キロにわたって長く伸びる油の帯が確認できるという。ペルシャ湾周辺の海面で確認される油の量は、大規模な紛争がないと想定される場合と比べ、今年3月の戦闘激化に伴い2倍に達しているとバーンズ氏らの研究で明らかになった。ただし、衛星画像で確認できるのは水面に浮かぶ油だけであり、油膜の厚さまでは分からない。また、紛争が続く同地への立ち入りは制限されているため、海洋生物への影響評価はさらに困難な状況にある。
世界有数の固有な生態系が直面する巨大な環境リスク
ペルシャ湾には多様な生物からなる生態系が広がっており、数種類のウミガメ、数百種類の魚類のほか、ジュゴンの生息数は世界2位を誇るとCNN.co.jpおよびYahoo!ニュースが伝えている。この水域で生き残れるのは過酷な環境に耐えられる海洋生物だけであり、世界で特に水温が高い水域の部類に入るだけでなく、年間を通じて水温が大きく変動する。例えばクウェート市付近の水温は真夏には最高で約36度に達する一方、低い時期には約16度まで下がる。UAEの自然問題担当外相特使は今年に入り寄稿した記事で、ペルシャ湾への攻撃をやめるよう求め、「被害による経済的損失は計算できるが、生態系や生物種の喪失は計算できない。ひとたび損なわれれば、こうした生態系は回復しないかもしれない」と訴えた。
拡散が難しい地理的条件と1991年の湾岸戦争の教訓
ペルシャ湾の汚染対策にはこの水域特有の難しさが立ちはだかるとYahoo!ニュースが報じている。湾は比較的深い場所でも水深は約110メートルしかなく、面積も24万平方キロ程度で、外洋につながる出入り口はホルムズ海峡の1カ所に限られる。そのため汚染物質が拡散したり希釈されたりすることは難しい。米ノバ・サウスイースタン大学でペルシャ湾を研究するバーナード・リーグル教授は、撤退するイラク軍がクウェートの数百の油井に火を放ちペルシャ湾全域に環境破壊を引き起こした1991年の湾岸戦争を教訓にすべきだと指摘する。「海岸線は壊滅的な被害を受けた。実際、サウジアラビアの多くの地域では砂を掘ると今でも当時の油が出てくる」とリーグル氏は振り返る。
数千万人の生活を支える海水淡水化施設への深刻な脅威
湾岸地域の数千万人の住民は、海水を飲料水に変える淡水化施設に依存している。湾岸協力会議(GCC)を構成する6カ国は世界の淡水化された水の約3分の1を生産しており、バーレーンとクウェートでは飲料水のほぼすべてを淡水化に頼っているとYahoo!ニュースが伝えている。ペルシャ湾の石油汚染によってこうしたインフラ施設が損傷すれば、人々の水の供給が直接的に危険にさらされかねない。さらに、UAEの気候変動・環境省が22日に発表したところによれば、タンカーからの原油流出を受けて同国のウンムアルカイワイン首長国では海岸が一時閉鎖され、当局が対応を進めている。イランの攻撃と今回の原油流出の関連は確認されていないが、生態系への影響を含めて懸念が強まっている。
気候変動研究の「天然の実験室」が受ける不測の打撃
ペルシャ湾の環境破壊がもたらす影響として意外なのは、気候変動が世界の海洋に及ぼす影響についての科学者の理解を妨げる可能性がある点だとYahoo!ニュースは指摘している。リーグル氏によると、ペルシャ湾の高い水温は、2100年ごろに熱帯の海域が達するとされる予想水温とほぼ同じである。同海域には地球上のあらゆる海の中でも有数の貴重な遺伝的特性の一部が存在し、今後必要になる多くの適応がすでに実現しているという。こうした貴重な環境と研究の場が、相次ぐ紛争と石油汚染によって修復不可能な損害を受けるおそれが出ている。ペルシャ湾をめぐる軍事衝突の激化は、海洋生態系やインフラの維持だけでなく、地球規模の環境科学の未来にも大きな影を落としている。
