1767740701
2026-01-06 22:30:00
マナスの創業者である肖弘氏は武漢市の華中科技大学を卒業してすぐの2015年に起業し、メッセージアプリWeChat(微信)の管理ツール開発を手掛けた。
最初の企業を売却後、2022年に立ち上げたのがマナスだ。正式な社名は蝴蝶効応(バタフライエフェクト)だが、本記事では分かりやすさを優先し、マナスで統一する。
既存の大規模言語モデル(LLM)をベースに当初はチャット、検索、執筆などの機能を提供するAIプラグイン「Monica(モニカ)」を提供していたが、2024年にチームを拡充しAIエージェント「マナス」の開発に着手した。
マナスは広範囲のタスクをこなす守備範囲の広さを強みとし、月額20〜200ドル(約3100~3万2000円)のサブスクリプションによって収益を得ている。同社によると2025年3月のサービス開始から8カ月で年間経常収益(ARR)が1億2500万ドル(約200億円)を超えたという。
マナスの出資者の顔ぶれと変化は、今の中国AIスタートアップのトレンドを象徴している。
最初の資金調達は2023年2月、シードラウンドで真格基金が出資した。2024年11月のシリーズAラウンドに紅杉中国(旧セコイア・チャイナ)、テンセント(騰訊)などの有名どころが参加。評価額が8500万ドル(約130億円)に達した。
マナスにとっての転換点は2025年4月。シリコンバレーの老舗VCであるベンチマーク・キャピタル(Benchmark Capital)がシリーズBを主導し7500万ドル(120億円)を出資、評価額は5億ドル(約780億円)近くに跳ね上がった。
動機はメタの焦り
メタによるマナスの買収について、真格基金のパートナーで、マナスのエンジェル投資家でもある劉元氏は「急な話で、偽オファーではないかと疑ったほどだ」と中国経済メディア「晩点Latepost」に語っている。買収交渉が始まって決着するまで、わずか10日余りだったという。
メタの動機は明確だ。巨費を投じたメタバースは軌道修正を迫られ、AI開発ではオープンAIやグーグルに後れを取っている。
2025年4月に発表した大規模言語モデル(LLM)「Llama 4」の性能は中国の「DeepSeek」に劣ると評価された。
メタは競合に対抗するため、M&Aや開発者引き抜きを始めた。同6月にはオープンAIから研究者3人を引き抜いたことと、AIスタートアップのScale AIに出資したことが明らかになった。
Scale AI創業者のアレクサンダー・ワン氏はメタの最高AI責任者(CAIO)に就任し、AI開発を主導する。
マナスの買収によってメタは「Llama + Scale AIのデータ + Manusの実装」というAIエコシステムを完成し、instagramやfacebookなどの自社サービスに、AIエージェントを組み込む体制が整う。
マナスと中国市場の不調和

マナスにも動機があった。マナスは確かに有望AIスタートアップではあったが、中国での評価はそこまで高くなく、前述の資金調達でも分かるように、米VCの出資によって評価額が急伸した。
マナスは自社でLLMを開発せず、米企業のLLMを使ってサービスを展開する。中国のユーザーデータを米国のモデルに送信する時点で、米中の経済安保のリスクに引っかかってしまう。
そのため、マナスはサービス開始直後の2025年3月にアリババクラウドと提携し、中国版を構築しようとしたが、実現には至らなかった。
サブスクリプションというビジネスモデルも、中国市場と相性が悪い。
中国はあらゆる分野で、ユーザーが「無料」を当たり前とし、サブスクの習慣が根付いていない。加えて生成AIサービスは激しい競争で値下げが進み、低コスト高性能のDeepSeekの登場によって、ただ同然で使うのが当たり前になった。
マナスの買い手候補になりそうな中国のメガテックは、ショート動画やSNSのように無料かつ魅力的なコンテンツでユーザーの時間を奪い、トラフィックを広告主に売るというモデルを基本としている。マナスが中国でビジネスをするなら、いずれアリババやバイトダンスなどの経済圏の無料プラグインとしてしか存続できないとの指摘もある。
現地メディアによると、2024年にバイトダンスがマナスに3000万ドル(約47億円)での買収を持ちかけた。当時、マナスはリリース前だったが、その価格を安すぎると考えた真格基金が、セコイアやテンセント、米VCなどをマナスに紹介し、マナスもグローバル市場を前提としたサービス開発を進めたようだ。
中国スタートアップに新たな道
マナスは2025年6月までにシンガポールに拠点を移し、中国市場から手を引いた。肖弘CEOが中国のSNSに「当社が長く存在するために世界に出て行くしか道はない」と投稿した際は大きな波紋を呼んだが、サブスクモデルを設計したときに道筋が固まったのかもしれない。マナスは開発プロセスでも英語インターフェースを優先し、登録や支払いシステムを米系のサービスにのみ対応させていた。
自社のLLMを持たないマナスは、メタの傘下に入ることで、膨大な計算資源や資金の確保に頭を悩ませることなくサービスの開発に専念できる。
2025年1月末、彗星のように生成AI界に現れたDeepSeekは、2025年の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)で話題をさらい、「国産」の象徴的存在になるとともに、科学誌「Nature」の「2025年の人物10人」に選ばれた。
一方、「第二のDeepSeek」と注目されたマナスは中国市場と決別し、世界に漕ぎ出した。
DeepSeekと道は分かれたが、アリババやテンセント、バイトダンスなど自国のメガテックの傘下に収まるのがゴールだった中国スタートアップの成功モデルに新たな道を示した点で、マナスも革新を起こしたと言える。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。「新型コロナ VS 中国14億人」「崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ」(大和書房)。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。
#メタ傘下入りの中国AIスタートアップマナス支援者が明かした内幕急展開すぎて偽オファーかと思った #Business #Insider #Japan