イランは5日、ホルムズ海峡で新たにタンカー3隻が損傷したと発表した。11月に入り被害報告が相次いでおり、英海事機関(UKMTO)によると今月1日以降の被害船舶は少なくとも5隻に達した。トランプ米政権下の対イラン戦争を巡る紛争が長期化する中、海運の安全確保が喫緊の課題となっている。
ホルムズ海峡で続く船舶への攻撃
イラン当局の5日の発表によると、ホルムズ海峡を航行中のタンカー3隻が新たに損傷を受けた。英海事機関(UKMTO)は、4日遅くに別の船舶1隻が正体不明の飛翔体2発による攻撃を受けたと公表している。ロイター通信によると、今月1日以降の被害件数は少なくとも5隻に及び、開戦以降で月間最多の35隻が被害を受けた10月とほぼ同等のペースで事態が悪化している。
渡邉英徳研究室の公開データ分析(note)によれば、11月1日から2日にかけて、オマーン・ムサンダム半島沖で複数の熱源が検出された。衛星画像や船舶の航跡データを重ね合わせた分析では、一部の船舶が自動識別装置(AIS)を停止して航行する「ダーク化」の状態にあったことが指摘されている。イラン革命防衛隊(IRGC)は、許可されていない航路を進んだタンカーが機雷に接触し爆発したと主張しており、海峡周辺での緊張は高まる一方だ。
米中間選挙後の政権内での動揺
米共和党が中間選挙で大敗したことを受け、トランプ政権内ではイラン紛争がもたらす政治的代償への見直しが急務となっている。バンス副大統領は4日、自身のX(旧ツイッター)への投稿で、トランプ大統領が推進した対イラン戦争との距離を置く姿勢を鮮明にした。バンス氏は、今回の選挙敗北の主な原因はイラン戦争にあるとの認識を表明している。
この動きに対し、イランのガリバフ国会議長は5日、トランプ氏を「負けが込んだギャンブラー」と表現し、厳しい批判を展開した。ガリバフ氏は、バンス副大統領がトランプ氏の空爆計画を止められない現状を指摘した上で、「戦争が誤りだと考えるのなら、上司にそう言ってみたらどうだ」と皮肉を交えて言及した。政権内部の亀裂が、今後の紛争の行方に影を落としている。
原油輸送網と安全保障のリスク
ホルムズ海峡の混乱は、日本への原油輸送にも直接的な影響を及ぼしている。渡邉英徳研究室の分析によると、ペルシャ湾内のラスタヌラでは、製油設備への攻撃主張や一部操業停止の報道があるものの、タンカーへの原油積み出し自体は継続されている。湾内で原油を積んだ船が海峡を通過し、湾外で別のタンカーへ積み替える「シャトル輸送」が、供給網の重要な役割を担っている。
一方で、フジャイラなどへパイプライン経由で原油を送り、そこから日本へ向かうルートも活用されている。ENEOS系タンカーの一部は、地中海から喜望峰を回る長距離航路を選択するなど、リスク回避に向けた動きが確認できる。日本向けの原油供給は、こうした複数の輸送ルートの組み合わせによって維持されているが、海峡そのものが抱える攻撃リスクは依然として排除できていない。

停滞する和平交渉の行方
イラン当局者は先週以降、カタールの仲介者を通じて敵対行為の終結に向けた提案を協議している。しかし、ロイター通信によると、和平合意の障壁となっている主要な問題について、現時点で双方が進展を公表する動きはない。紛争の政治的解決の糸口は見えず、海運業者やエネルギー市場は厳しい状況に置かれ続けている。
紛争が未解決である限り、ホルムズ海峡の航行は今後も危険にさらされる見通しだ。攻撃の実行犯や飛翔体の詳細など、不明な点は数多く残されている。米政権による政策転換の可能性と、イラン側の対話姿勢がどこまで一致するのか、和平に向けた交渉の進展が今後の情勢を左右する唯一の鍵となっている。