米中対立の新たな戦場が、一般の投資家には見えないインターネットの深層、すなわち海底ケーブルへと移行している。世界のデータフローの95%以上を担うこのインフラにおいて、中国の調査船による不審な動きや地政学的リスクが表面化する中、ビッグテックや関連企業は計画のルート変更や中国製サプライヤーの排除など、リスクを回避する動きを加速させている。
高まる海底の地政学リスクと中国調査船の動向
ワシントンD.C.に拠点を置くシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の報告書によると、中国は太平洋における海底ケーブルの周辺で、他のどの国家よりも多くの時間を停泊や周回に費やしている。米国やロシアを含む47カ国・200隻の調査船の行動を比較した分析では、中国船が「統計的に有意に大きな割合の時間」を重要インフラの周辺で過ごしていることが判明した。 Indo-Pacific Defense Forumによって報じられた同分析では、こうした持続的かつ不均衡な活動について、中国が「妨害工作や潜水艦作戦のための地形分析を支援する水中データ収集に研究艦隊を利用している可能性がある」と指摘している。
民間調査船は、情報収集活動に対する「もっともらしい否認」を国家にもたらす独自の隠れ蓑となる。報告書によれば、向陽紅(Xiang Yang Hong)研究船団の船舶が、2024年7月から10月の間に米国とオーストラリア、インドネシア、シンガポール、グアムなどを結ぶ3本の海底ケーブルの周辺で時間を費やした事例が言及されている。これらの船舶は、正確な海底地図を作成するための測量に関連する「芝刈り機」のパターンで移動しているという。

さらに、米中経済安全保障調査委員会の委託を受けた中国戦略リスク研究所(China Strategic Risks Institute)が公表した報告書では、台湾、日本、フィリピンがケーブルリスクの最も高い地域として特定された。同報告書では、GoogleのTPU、MetaのORCA、VerizonのE2Aなどのケーブルプロジェクトが最も危険にさらされているものとして挙げられている。
ビッグテックと開発企業によるリスク回避とルート再編
こうしたリスクに対応するため、海底ネットワークの資金を融資する企業や開発者は、北京の関与を排除したルート選定を進めている。マレーシア、ベトナム、シンガポール、タイを結ぶ計画の「MViSTA」システムでは、開発者らがロイターに対して語ったところによると、中国のサプライヤーを排除して建設が進められており、南シナ海における北京の主張水域を意図的に避けたルートで描かれている。

MViSTAの開発者らは、日本のNECとフランスのアルカテル・サブマリン・ネットワークス(ASN)の間で選定を進めている。米国のビルダーであるサブComも招待されたものの、受注残が一杯であるとして見送った。一方で、ファーウェイ時代のサプライヤーから衡通光電(Hengtong)グループの一部となった中国のHMN Techは、こうした動きの中で最も直接的に圧迫されている。
また、Googleはオーストラリアとタイをインド洋経由で結ぶ「TalayLink」を個別に計画しており、世界の海上貿易の約21%を占め、ケーブルが密集するマラッカ海峡を迂回するルートをとっている。約4億ドルの価格を持つMViSTAのようなプロジェクトに対し、Metaの2006年の設備投資ガイダンスのように、巨大IT企業にとっては一握りの規模に過ぎないが、インフラ全体が戦略的標的となっている現状から、防衛協力や技術開発の動きも活発化している。
今後の展望と残された課題
海底ケーブルをめぐる「水中の冷戦」が激化する中、オーストラリア、英国、米国は2027年までにケーブルを保護するための水中ドローン技術に関する作業を発表しているほか、シンガポールは重要インフラ防衛のための17カ国による枠組みをまとめている。しかし、トランス太平洋ケーブルの切断や障害が既存の容量を圧倒し、インターネット通信やクラウドサービス、金融取引に深刻な影響を与えるリスクは依然として残されている。こうしたインフラの安全確保に向け、より高度なセンサーやパトロールの優先順位付けが急務となる一方で、海底の要衝における緊張は今後も続く見通しである。