ウクライナのゼレンスキー大統領は、軍事通信システム「Starshield」および衛星インターネット「Starlink」に対して、意図的な速度制限が再び課されていると報告した。一度は復旧が報告されたものの、軍事作戦や兵站に支障が出る状況が続いている。
軍事作戦を阻む通信速度制限の再発
ウクライナ軍がドローン制御や防衛作戦に利用する衛星通信システムで、深刻な通信障害が発生している。GIGAZINEの報道によると、2026年10月上旬から「Starshield」に通信速度の制限が課され、時速160km相当を超える速度で移動する端末で通信が切断される事態となった。当初、ウクライナのフェドロフ元国防大臣は10月14日、接続が復旧しつつあるとX(旧Twitter)で述べていた。しかし、ゼレンスキー大統領はその後、制限が完全に解消されることはなく、再び制限がかかった状態に戻っていると報告した。この影響は攻撃任務のみならず、防衛や兵站を担う通常の「Starlink」にも及んでいる。

ウクライナのみに適用される「計画された作戦」
ゼレンスキー大統領は、この通信制限がウクライナ国内でのみ行われていると主張している。大統領によれば、EU圏内でStarlink端末を搭載した車列を時速180kmで走行させたところ、問題なく通信が維持された。この検証結果に基づき、大統領は現在の速度制限を「計画された作戦として行われている」と断言し、軍事および外交の両面で対話を行っていると明かした。一方、英紙The Telegraphは、この制限措置がイーロン・マスク氏からトランプ大統領へ持ちかけられ、承認された可能性があると報じている。これに対しトランプ大統領は、ホワイトハウスでの演説で自身にもマスク氏にも責任はないとの見解を示した。
米政府介入の有無をめぐる対立
Starshieldの接続制限を巡っては、米政府の関与を疑う声に対し、米国側から強い反発が出ている。中央日報日本語版によると、ベッセント米財務長官は18日、米政府が介入したというゼレンスキー大統領の主張を「極めて無責任だ」と批判した。ベッセント長官はNBCテレビのインタビューで、トランプ大統領とルビオ国務長官が政権内の関与を否定していると強調した。一方で、ロイター通信は15日、米政府当局者らの話として、通信制限の指示がホワイトハウス内部から出されたと伝えており、情報源によって見解が分かれている。
欧州が進める独自の代替システム開発
米国製技術への依存に対する懸念から、欧州では独自の通信インフラ整備を急ぐ動きが加速している。財経新聞の報道によれば、ウクライナのイホル・ジョウクワ副長官は、米国側が通信を制限できる現状を指摘し、欧州諸国に対して独自の代替システム開発を求めた。現在、欧州連合(EU)は「IRIS²」と呼ばれる独自の衛星通信ネットワーク構築を進めており、政府機関や防衛活動での利用を想定している。ただし、このシステムが本格運用されるのは2030年を見込んでおり、スターリンクの代替として即座に機能するまでには数年の期間を要する見通しだ。
ウクライナ軍のセルヒー・ベスクレストノフ大統領顧問は16日、移動中の通信端末の速度が時速約160キロを超えると通信が切断される制限が導入されたと説明した。
今後の軍事通信の先行き
通信制限を巡る論争は、ウクライナと米国の外交関係にも影を落としている。ベッセント財務長官はウクライナへの軍事支援の重要性を認めつつも、同盟国としての位置づけに関する質問には明確な回答を避けた。また、欧州諸国からはポーランドのシコルスキ外相が、マスク氏による技術の政治利用を批判するなど、反発が広がっている。軍事作戦の根幹を支える通信インフラの安定性は、今後の戦況を左右する極めて重要な要素であり、ウクライナは米国側との調整を継続しつつ、欧州独自の代替網構築という長期的課題にも直面している。