光で脳を操る技術の誕生

藻類から始まった科学の連鎖
この技術の端緒は、単細胞藻類「クラミドモナス」の研究にある。この藻類は光をエネルギーに変換して遊泳する性質を持ち、光を感知するための「目点」と呼ばれるタンパク質を備えている。ペーター・ヘーゲマン博士とゲオルク・ナーゲル博士らは、この光感受性タンパク質に着目し、そのメカニズムを解明した。かつて伝説的な科学者フランシス・クリックもまた、脳の複雑なネットワークを解明するために、より精密なツールが必要であると夢見ていた。
2005年、スタンフォード大学のカール・ダイセロス博士は、このタンパク質を哺乳類の神経細胞に導入し、光による制御を実証した。2007年には、ヘーゲマン博士が所属するフランクフルトのマックス・プランク研究所の研究者たちが、顕微鏡にクリスマス用の装飾から流用した光ファイバーを取り付けて実験を行うなど、黎明期には手探りでの開発が続いた。当時、神経化学者だったディマ・クズミン氏は「どう機能するのか、どのようなツールが必要なのか、当時は確信が持てなかった」と振り返る。
ダイセロス博士は、2005年の「Nature Neuroscience」誌に発表した論文で、この技術を初めて示した。その後、彼はスタンフォード大学でオプトジェネティクス研修プログラムを立ち上げ、世界中の研究所に操作済みのオプシン遺伝子を配布するなど、技術の普及に尽力した。現在、ダイセロス博士のチームは、個々の神経細胞だけでなく、特定の神経細胞の集団(アンサンブル)を制御する手法を完成させている。
脳疾患治療への新たな可能性
オプトジェネティクスは基礎研究にとどまらず、パーキンソン病、てんかん、うつ病、さらには失明の原因となる網膜色素変性症といった疾患の治療法を探る鍵としても期待されている。カロリンスカ研究所の科学者たちは、この技術が脳の機能不全を理解する新たな地平を開いたと評価している。例えば、網膜色素変性症のモデルマウスにおいて、光感受性タンパク質を網膜神経節細胞に発現させることで、視覚の再構築を試みる研究も進んでいる。

受賞者の横顔とスタンフォードでの反応
今回の受賞者3氏は、合計1200万スウェーデン・クローナ(約120万米ドル)の賞金を分け合う。受賞者の内訳は以下の通りである。
- カール・ダイセロス博士(Karl Deisseroth):スタンフォード大学生物工学・精神医学・行動科学教授。1971年ボストン生まれ。ハワード・ヒューズ医学研究所の研究員も務める。
- ペーター・ヘーゲマン博士(Peter Hegemann):ベルリンのフンボルト大学神経科学・実験生物物理学教授。
- ゲオルク・ナーゲル博士(Georg Nagel):ヴュルツブルク大学神経生理学教授。
10月5日の未明、ダイセロス博士のもとにノーベル委員会から電話があった際、博士は起きていたものの、最初はその電話を逃した。その後、妻のミシェル・モンジェ=ダイセロス博士の電話に連絡が入り、受賞が伝えられた。ダイセロス博士は「言葉を形成する力を失ったかのように感じたが、数分で回復した」と語り、その直後にリモートインタビューに応じた。

スタンフォード大学のジョナサン・レビン学長は、「カール・ダイセロスは現代神経科学を定義する人物であり、彼の先駆的な研究がノーベル賞に選ばれたことを非常に喜ばしく思う」と祝辞を述べた。また、工学部のジェニファー・ウィドム学部長も、彼の工学的精度と探究心、そして慈悲の精神が今回の成果に結びついたと称賛した。ダイセロス博士自身は、今後も「助けを必要としている多くの人々のために、研究を続けていきたい」と、変わらぬ情熱を語っている。