オーストラリアのシドニー大学などの研究チームが、イギリスの医学誌『ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・サイアトラリー』で発表した研究により、重度のうつ病などを抱える人の約4分の1が、体内時計の乱れに関連する「サーカディアンうつ病」というサブタイプに該当する可能性が示されました。この研究は、従来のうつ病治療のあり方を見直す可能性を示唆しています。.
オーストラリアの1万人超のデータから見えた新亜型
シドニー大学ブレイン・アンド・マインド・センターの研究チームは、重度、再発性、または持続性のうつ病に悩む人々を対象とした大規模な「オーストラリアうつ病遺伝学研究」のデータを利用し、臨床的および遺伝的な分析を行いました。分析対象となった11,380人の成人には、女性が75%含まれていました。
その結果、全体の約4分の1にあたる2,604人の患者が、身体の24時間周期の体内時計の乱れに深く結びついた共通の兆候を示していることが明らかになりました。研究の筆頭著者であるエミリアナ・トニーニ氏は、この状態を従来の症状中心の分類とは異なる生物学的に裏付けられた亜型であると位置づけています。同氏は、「私たちの研究は、重度、再発性、または持続性のうつ病における約4分の1の人々に影響を与える新たなサブタイプとして、サーカディアンうつ病を特定しました」と述べています。
6つの基準が示す特徴的な症状と若年発症の傾向
サーカディアンうつ病の判定には、生活や睡眠に関する6つの主要な特徴のうち少なくとも3つを満たすことが基準とされました。具体的には、季節性の気分の変動、一般的な平均よりも大幅に遅い睡眠中央値、平日と休日で睡眠スケジュールが大きく異なる「社会的時差ぼけ」、極端な夜型生活(ナイトオウル)、うつ状態の際にとりわけ長時間の睡眠をとる過眠、そして起床後も強い疲労感が続く状態が含まれます。
分析によると、サーカディアン型に分類された人々は、非サーカディアン型の人々に比べて発症年齢が若く、より多くのうつ病のエピソードを経験し、より複雑な経過や、自殺念慮、躁病様・精神病様の症状を強く示す傾向が確認されました。また、この群の80%が女性で、平均年齢は37.9歳でした。
従来の抗うつ薬が効きにくい理由と新たな治療アプローチの可能性
ブレイン・アンド・マインド・センターのイアン・ヒッキー教授や共同上級著者のジェイコブ・クロース氏らは、サーカディアン型の最大の問題点として、通常のガイドラインで推奨される標準的な治療法に対する反応の悪さを挙げています。選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった従来の第一選択薬は、この亜型の人々に対して効果が薄く、むしろ副作用が強く現れることが示されました。

ブレイン・アンド・マインド・センターのジェイコブ・クロース氏は「サーカディアンうつ病は個人の体内時計と結びついているため、光療法やメラトニンといった概日リズムを標的とした治療法の方がはるかに適切である可能性が高く、臨床医はこうした症状を持つ人々に対して、より早期にこれらの治療法を選択すべきです」と述べています。
ジェイコブ・クロース氏が指摘するように、体内時計の乱れがうつ状態の根底にある場合、光療法やメラトニンといった、概日リズムに直接働きかける介入が重要となります。専門家らは、医療従事者がこうした特徴を持つ患者に対して従来の薬物療法以外の選択肢をより早期に検討すべきであると訴えています。
今後の検証課題と国際的な臨床応用に向けた視点
今回の発見はうつ病治療の個別化に向けた前進である一方、専門家からは慎重な姿勢も求められています。本研究は一つの大規模なオーストラリアのコホートに基づいているため、国際的な検証が不可欠です。
この新しい概念や治療アプローチについてさらに詳しく知り、自身の症状に合わせた適切な方向性を検討したい読者は、自己判断を避け、必ず医療の専門家や資格を持つかかりつけ医に相談してください。