英国民保健サービス・イングランド(NHSE)は2026年10月16日、トランスジェンダーの患者が自認する性別ではなく生物学的性別に基づいた病棟や病室で治療を受けるべきだとする新たなガイドラインを発表した。臨床的に適切でない場合の代替措置も求めており、医療現場での運用をめぐり議論を呼んでいる。
生物学的性別に基づく病棟収容と代替措置
BBC Newsの報道によると、NHSEが発表した新ガイドラインでは、患者は出生時の身体的性別に基づいた病棟や病室に収容されるべきだと定められている。ただし、これが臨床的に適切ではないと判断される場合には代替措置を講じ、すべての患者の尊厳と安全を維持することが求められる。また、救急外来や緊急治療室など、臨床上のニーズが最優先される状況があることも明示されている。以前のガイドラインでは性自認に基づく利用が示唆されていたが、方針の転換が図られた。
職員向け施設とジェンダー中立空間の整備
職員向けの更衣室やトイレなどの施設についても、生物学的性別に基づいて利用されるべきだと規定されている。一方で、トランスジェンダーの人々に対する差別を避けるため、医療機関は個室トイレや男女共用トイレといったジェンダー中立の空間を十分に提供し、その整備状況を確認する監査を実施するよう促されている。Yahoo!ニュースの配信記事でも、個々のケースに応じた判断や臨床上のニーズを満たす重要性が強調されている。

増加する男女混合病棟のガイドライン違反件数
こうした方針の背景には、多くの病院が単一性専用病棟の維持に苦慮している現実がある。NHSEのデータによると、単一性専用病棟に異なる性別の患者を入院させるという規則の違反件数は毎年増加傾向にあり、2025年6月の3853件から、2026年8月には5520件へと拡大している。病院側は限られたリソースの中で対応を迫られており、現場の運営上の大きな負担となっている。
女性権利団体と権利擁護団体の異なる反応
生物学的性別を重視する女性権利団体「セックス・マターズ」のマヤ・フォーステイター最高経営責任者(CEO)は、新ガイドラインを現実への重大な回帰として歓迎した。その一方で、NHSの患者データに混乱があり、数千人のトランスジェンダー患者が反対の性別として記録されている可能性があると懸念を示している。これに対し、権利擁護団体の「トランス・アクチュアル」や「トランス・プラス連帯連盟」は、現場の職員に混乱を生み出し、リソースが乏しい病院では実行不可能な運営上の課題になると批判している。
相次ぐ労働裁判と今後の見通し
NHSをめぐっては、法解釈や職場の規則を巡る法的な争いが続いている。2026年1月には、イングランド北部のダーリントン記念病院で、トランスジェンダー女性の同僚による女性更衣室利用に異議を唱えた看護師グループの尊厳を侵害したとして、裁判所が間接差別を認定した。またスコットランドでも、同様の更衣室利用に反対した看護師に対する嫌がらせが認定される労働裁判があった。こうした司法判断や法執行を巡り、各医療機関が新ガイドラインをどのように実務へ落とし込んでいくのかが注視されている。