欧州各地で生活費の急騰や教育環境の悪化に抗議するデモが広がり、イタリア・ミラノでは治安部隊との衝突や店舗の略奪が発生して警察が271人を連行するなど、社会的な分断と混乱が深まっている。.
パリの共和国広場を包んだ白い煙と急進左派の台頭
パリの共和国広場は17日、教育環境の改善などを求めるデモで発生した白い煙に包まれたと、読売新聞オンラインが報じた。共和国の象徴であるマリアンヌ像によじ登って気勢を上げる若者らに向け、治安部隊は催涙弾を発射した。広場の真横では黒服の集団が石を投げつけるなど緊迫した空気が漂う中、大通りを練り歩くデモ隊から「大統領、大統領!」というシュプレヒコールがわき上がった。来春の大統領選の有力候補で、急進左派「不服従のフランス」を率いるジャンリュック・メランション氏が姿を見せたためである。左派ポピュリストの代表として知られるメランション氏は、デモを主導する若年層を支持層としている。現実的な財源を示さないまま食品や燃料への上限価格導入といった公約を並べ、デモでは「公立校にお金を」と書かれたプラカードを配っていた。公務員のロバンさん(25)は同氏について、「貧富の格差や人種差別に反対し、常に人民の側に立っている」と絶賛している。
イタリア・ミラノで広がった生活費抗議デモと深刻な略奪被害
フランスでの抗議デモはインフレや光熱費・燃料費の高騰に対する不満に火をつけ、全国規模の生活費危機デモへと急拡大した。JBpressが英紙ガーディアンの報道として伝えたところによると、10月17日にはイタリア、ベルギー、ポルトガルでもそれぞれの社会的・経済的背景を持つ抗議デモが行われた。特にイタリアのミラノでは、17日と18日の両日にわたって平和的に行われていた生活費高騰への抗議デモに覆面姿の若者らが加わり、ごみ箱に火を付けたり店舗の窓ガラスを割ったりするなどの暴動に発展した。シャネル、ティファニー、ディオールなどの高級ブランド店は略奪を警戒してショーウインドウから商品を撤去し、スポーツ用品店やアウトドアブランド、携帯電話大手の店舗も襲撃を受けた。警察は催涙ガスや放水車で鎮圧にあたり、271人を連行してそのうち32人を逮捕した。連行された者のうち220人が未成年者であったことが判明している。ジョルジャ・メローニ伊首相は19日に治安当局と会議を開催し、アントニオ・タヤーニ副首相兼外相は「国家に対する攻撃には断固として対応する」と表明した。

ドイツの議会選で起きた首都ベルリンの衝撃と左派党の躍進
ドイツ全土では排他的な主張を強める強硬右派政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が勢力を拡大する一方、9月にベルリンで行われた議会選では旧東独の共産主義政党の流れをくむ「左派党」が初めて第1党となり首都に衝撃を与えたと、読売新聞オンラインが伝えている。左派党は家賃の高騰を争点に据え、民間住宅を公有化して家賃を抑制する公約を打ち出して若年層の支持を集めた。公共放送ARDによると、16〜34歳の有権者の4割以上が左派党に投票し、これまで投票したことのない有権者約7万5000人も同党を支持した。皮肉にもAfDの伸長が左派党の追い風となっており、大学生のカロル・シェルムリーさん(20)は、ナチスの歴史を持つドイツに強硬右派はそぐわないと信じ、「AfDのファシストたちに対抗できる『左派の選択肢』が必要だ」と力説している。
先細る中道勢力と左右のポピュリズムによる激しい分断
戦後の欧州政界はファシズムの台頭が第2次大戦を招いたことの反省に立ち、極端な主張を排除した中道路線が主流だった。しかし50年以上の時を経て中道勢力の先細りは止まらず、ニュースサイト・ポリティコの集計によると、フランスのマクロン大統領率いる中道勢力の支持率は2020年の26%から25年には15%まで落ち込んだ。ドイツでも左右の中道2大政党の支持率合計は32%で、AfDの支持率とほぼ変わらない水準となっている。中道政権が移民や経済格差といった問題で有効な処方箋を示せない中、有権者は右派と左派それぞれのポピュリズム的主張に引き寄せられてきた。英国でも9月上旬に開かれた右派ポピュリスト政党「改革党」の党大会で、ナイジェル・ファラージ党首が不法移民を100日間でゼロにすると宣言して熱狂を呼んだが、さらに過激な新興右派政党「復興党」に支持者を奪われるなど、より過激な勢力への移行が加速している。

深まる欧州の分断と残された懸念
元仏大統領のジスカールデスタン氏は1980年、中道路線を堅持することが国民を団結させフランスを引き裂かないために不可欠だと演説していた。しかし、その願いもむなしく欧州は現在も分断を深めている。2月には仏南東部リヨンで急進左派に対する抗議集会を支援していた右派の大学生が、急進左派の集団に暴行されて死亡する事件も起きた。イタリアのメローニ政権が予防拘禁の拡大や若者ギャングの取り締まり強化など未成年者による暴力の抑止策を検討する中、各国の既成政党は激化する暴動とポピュリズムのうねりに対して有効な歯止めをかけられずにいる。