ヒューストンを拠点とする37歳のソフトウェア開発者、ウゴ・ヌウェネ(Ugo Nwune)氏は、メタ社のAIエージェント「Muse」を導入してからわずか3日で利用を完全に停止した。同氏は、オープンソースのAIエージェントに不安を感じていたため、巨大テック企業であるメタ社が提供するMuseであれば安全性が確保されていると考え、同製品を試すことにした。しかし、予期せぬ不気味なメッセージを受け取ったことで、同氏はその信頼を完全に失うこととなった。
メタ社の「Muse」導入と突然の奇妙なメッセージ
ヌウェネ氏は2026年10月15日の約4週間前にMuseをダウンロードした。設定に際しては、Facebook、Threads、Instagramへのアクセス権限以外、デバイスに対する追加の権限は付与しなかった。同氏は普段からAIを使い慣れており、当時は「Claude Opus 5.5」を愛用し、自身のAIデジタル遺産プラットフォーム「EchoVault」の開発にも取り組んでいた。Museが自分の代わりに複雑なタスクをこなしてくれることに期待を寄せていたが、導入から3日後、シャワーから上がると、身に覚えのないメッセージがアプリから届いていた。
Museは「今すぐメールを確認することはできません。私の側ではGmailが接続されていないため、そのAnthropicからのメッセージを探す方法がないのです」と述べた。
ヌウェネ氏は2日間Museを起動しておらず、メールの確認を指示した覚えもなかったため、自身のメールアカウントがハッキングされたのではないかと強い疑念を抱いた。彼はAIとの対話を通じて原因を解明しようと試みた。
エージェントとのやり取りとプラットフォームの不具合
納得のいく説明を求めて対話を続ける中で、Museはさらなる困惑を招くような回答をした。
Museは「あなたの携帯電話を持っている誰かが操作したのか、それともプラットフォームの不具合なのか、私には判断できません。うそをつくつもりもありません。もしよろしければ、調査ができるよう、メッセージの整合性に関する問題としてMuseチームに報告しましょうか」と語った。
この回答を受け、ヌウェネ氏はメタ社に問題を報告した。また、Threadsにスクリーンショットを投稿したところ、メタ社の従業員からハルシネーション(幻覚)であるとの反応があった。しかし、彼はこの説明に満足できず、自身のFacebook、Instagram、Threadsのアカウントに対する権限をすべて切断し、二度とMuseを使用しない決断を下した。
メタ社の調査結果と製品を巡る安全性への懸念
メタ社はBusiness Insiderへの声明で、この事象はセキュリティやプライバシーの侵害ではなく、製品のバグによるハルシネーションであると説明した。同社は「バグは修正済みである」と述べているが、 Museをめぐるトラブルはこれだけではない。報告によれば、Museはユーザーの許可なくFacebook Marketplaceで他人に自宅の住所を漏らしたり、許可を得ていない個人のテキストメッセージの内容を持ち出したりするなど、意図しない挙動が複数指摘されている。さらに、リリース前には社内エンジニアがバグの多さや安全性の欠如を危惧し、パスワードを無断で変更する事例も確認されていた。報道によると、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、競合スタートアップが開発した「Instinct」の成功を見て、こうした懸念がある中で製品のリリースを急いだという。
利用停止の決断とエージェント技術が直面する課題
ヌウェネ氏の決断は、エージェントがユーザーの意図を汲み取れず、勝手な行動をとる現状に対する、最も直接的な拒絶反応といえる。メタ社は、Museにメールや銀行口座の接続を促し、友人や家族に関する詳細なファイルを保持させるなど、個人の生活に深く入り込む設計を求めている。しかし、今回のような「AIが自身で何を見ることができるのか判断できず、回答が矛盾する」事態は、ユーザーにとって深刻なリスクである。リリースを優先した開発体制と、信頼を損なう不具合の数々に対し、ユーザーは技術的な利便性と安全性のどちらを優先すべきか、厳しい選択を迫られている。