このため、英国のレディングで暮らす87歳の未亡人インデュマティ・タパ氏のように、年金だけでは家賃や食費を賄えず、友人からの援助や週約100ポンドの給付金に頼らざるを得ない困窮した生活を送るケースが少なくない。彼女の友人で労働党の地方議員であるプラティクシャ・グルン氏は、「彼女は年金額がもっと多ければ生活状況が改善されると考えており、これまでの扱いに失望している」と代弁している。
グルカ兵の遺族らが直面する年金格差と生活の困窮
1997年を境にした年金制度の分断
グルカ兵の年金問題は、1997年7月1日という日付が大きな分岐点となっている。2007年に導入された年金制度の改定により、現役のグルカ兵は他の英国軍兵士と同等の年金を受け取れるようになったが、この適用は1997年7月1日以降に遡及して実施されたに過ぎない。Eachotherによると、この日付以前に退役した軍人には新しい年金規則が適用されず、年金受給資格の移行も認められなかった。
さらに、1997年以前の従軍期間については、全期間が年金算定対象となるわけではなく、階級に応じて期間の23%から36%程度しか算定されないという不平等が存在する。元グルカ兵のシュリー・リンブ氏は、18年間の従軍期間のうち、12年分相当しか完全に評価されなかったと述べている。この制度上の格差により、退役後の月額受給額に数倍もの開きが生じている。
改善を求める闘争と政府の立場
退役軍人やその家族、支援団体である「グルカ・ジャスティス・キャンペーン」は、こうした歴史的な差別や格差の解消を求め、長年抗議活動を続けてきた。2021年には、年金改善を求めて抗議活動参加者によるハンガーストライキも行われた。
一方で、退役軍人からは強い反発がある。英国グルカ福祉協会の会長を務めるチケンドラ・ダル・デワン元少佐は、英国に移住した高齢の退役軍人たちが、言語の壁や生活環境の激変により社会から孤立し、「迷える魂」のように困窮している現状を指摘している。ネパールに残った退役軍人にとっても、現在の年金額は生活を維持するには不十分であり、多くの者が生活のために副業を余儀なくされているのが実態である。
歴史的背景と将来への展望
グルカ兵の処遇を巡っては、その背景に植民地時代の遺産や人種による差別が存在するという指摘もある。1989年の英下院報告書では、グルカ兵と英国軍大尉の間で最大948%もの年金額の格差があったことが明らかにされている。

2009年には女優のジョアンナ・ラムリー氏らの尽力により、一定の従軍期間を満たしたグルカ兵に英国への永住権が付与されるようになった。しかし、移住した退役軍人たちが直面する物価高や不十分な年金保障の問題は依然として解決されていない。現在も、一部の元軍人らは欧州人権裁判所への提訴など、平等の実現に向けた法的手段を含めた活動を継続している。