超一流スポーツ選手に共通する「思考法」を学び、ビジネスに活かすための1冊『超☆アスリート思考』が発売された。この記事では、同書にも登場する、オリンピック柔道史上初の3連覇を成し遂げた野村忠宏さんに、「結果」と「プロセス」のどちらか大事かについて語っていただいた。(インタビュー/金沢景敏 構成/前田浩弥)
写真はイメージです Photo: Adobe Stock
――野村さんは『超☆アスリート思考』の中で、次のような趣旨のコメントを残していますよね。
「若いころは、オリンピックで戦えないのであれば、柔道を続ける意味はないと考えていたけれど、度重なる怪我に肉体の衰えという現実を前に、もはやオリンピックには出られないことを受け入れたうえで、戦い続けることを選択した。真剣勝負の世界は、結果がすべてだが、その結果以上に、そこへ向かうプロセスに奥深い意義があることを知った」
この言葉の真意を、改めて教えていただけませんか? 「結果を出す」ことにとことんこだわって努力する、そのプロセスにこそ人生の満足はあるという意味でしょうか?
「プロセス」と「結果」は、どちらが大事か比べるようなものではない
これは丁寧に説明する必要がありますね。
というのは、「結果より、結果に至るまでのプロセスが大事」という言葉をよく聞きますが、私は正直、この言葉にあまり賛同できないからです。
実は、学生時代の自分は「結果に至るまでの小さなプロセスの積み重ねが大切だ」と信じ、一日一日、「今日も頑張った」「今日は、全体のプロセスのここまで進んだ」と振り返っていました。
しかしそれでは、一向に勝てるようになりませんでした。「一日一日、プロセスを進める」ことが目的になり、「最終目的地」を見失っている練習が続いたからです。
「プロセスとは何か」と問えば、それは「結果を出すため」のものでしょう。それ以上でもそれ以下でもありません。「結果を出すため」に、「プロセス」がある。両者はそもそも、どちらが大事かを比べるようなものではないのです。
「チャンピオンになる」という明確な目的のもと、「チャンピオンを目指す競技者として必要ではないもの」を排除し、律する日々を送ることで、私は勝てるようになりました。
明確な目的をもち、その目的を達成するために必要なことをやり、必要ないことはすべて排除する。この「目的収束思考」に徹して邁進すれば、そのプロセスは自ずと素晴らしいものなっているはずです。
しかしそのプロセスが「素晴らしいもの」であったかどうかがわかるのは、目的を達成してからなのです。
野村忠宏さん 柔道家、株式会社Nextend 代表取締役
柔道男子60kg級でアトランタ、シドニー、アテネで柔道史上初、また全競技を通じてアジア人初となるオリンピック3連覇を達成。2013年に弘前大学大学院で医学博士号を取得。引退後は国内外で柔道の普及活動を行い、スポーツキャスターやコメンテーター、講演活動など多方面で活躍している。
オリンピックに出られなくても、「目指すもの」がなくなるわけではない
ただ、年齢とともに「目指すもの」は変わります。
全員が全員、死ぬまで第一線で輝いて生きられるかといったら、そうではありません。誰もみんな平等に衰えはきますし、できることも少なくなってきます。エネルギーでも、新しいことの吸収力でも、若い人には叶わなくなってきます。
そこで腐り、若いころの栄光を語って「何も目指さなくなる人間」になるのか、それとも「今の自分」なりに、新しいチャレンジや出会いを求め、「何かを目指す人間」になるのか。そこには雲泥の差があると私は考えています。
2008年、北京オリンピックへの出場が絶たれた後も、私は現役を続けました。
度重なる怪我に加え、肉体の衰えも隠し切れなくなり、「もうチャンピオンを目指すことはできない」と覚悟しました。「かつてのような華やかな舞台にはもう戻れないのか」と思うと、寂しくなる思いもありました。
ただ、私には「柔道を極めたい」という、新たな「目的」が芽生えました。
肉体が全盛期のように動かなくなる中で、その分、柔道を深く考えるようになりました。
新たなチャレンジや新たな出会いが増え、「チャンピオンになる」ことを目的として柔道に精進していたころよりも、もっと柔道のことがわかってきたと感じるようにもなりました。
たとえオリンピックに出られなくても、私が柔道に対して「目指すもの」は決してなくならない。そして明確な目的がある以上、そこに向けて邁進することができる。
これが、私が見つけた「結果を出す」ことよりも大切なことなのだと、私はそう考えています。(野村忠宏さん/談)
(このインタビューは、『超⭐︎アスリート思考』の内容を踏まえて行いました)
金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。
【著者からのメッセージ】
はじめまして、金沢景敏です。
京大アメフト部出身の僕はかつて、TBSの社員としてスポーツ番組の制作を担当させていただき、すごく充実した日々を送っていました。
しかし、「テレビ局の看板」のおかげでチヤホヤされて“いい気”になっている自分に疑問をもち、フルコミッションの営業マンとして実力を試してみたいとプルデンシャル生命に転職。「日本一の営業会社で日本一になる」ことを目標にしたのです。
もちろん、そんなに甘い世界ではありません。最初はさんざんな目にあいました。というか、僕が、「売ろう、売ろう」とするがあまり、お客様を無理やり説き伏せるようなことをしていたせいで、お客様からの信頼を得ることができなかったのです。
そして、気が付いたら、「このまま行ったら、営業マンとして終わる……」というところまで追い詰められてしまいました。当時は、吐くほどの危機感に苛まれたものです。
このとき、苦境に陥った僕を鼓舞してくれた存在があります。
TBS時代に接してきた数多くのトップアスリートたちです。
僕は、彼らと接するなかで、彼ら特有の「思考法(マインドセット)」、あるいは「思考のクセ」があるということに気付きました。
もちろん、トップアスリートはみなさん個性的ですから、その個性に応じて「思考法」もさまざまです。それでも、枝葉の部分を切り落として、幹の部分を取り出せば、ほとんどのトップアスリートに共通する、王道と言っていいような「思考法」(それを、僕は「アスリート思考」と名づけました)が存在すると思うのです。
⚫︎「自分の弱さ」を認めることから始める
⚫︎「やるか、やらないか」の二択を自分に迫る
⚫︎「前向きな内省」を突き詰める
⚫︎「コントロールできないこと」は考えない
⚫︎嫌なことがあったら「感謝」する
⚫︎「やる気」を頼りにせず、やらざるを得なくなる「仕組み」をつくる
⚫︎「これが限界」という一線を少し超える負荷を自分にかける
⚫︎やるべきことを徹底的にやれば、「結果」は自然とついてくると考える
そこで僕は、こうした「アスリート思考」を徹底的に実践することで、営業マンとして巻き返しを図ることにしました。もちろん、すぐに結果につながるわけではありません。しかし、愚直に「アスリート思考」を実行し続けることで、徐々に状況は変化。好循環が始まると、それはどんどん加速していき、気がついたら、転職一年目にしてプルデンシャルで「日本一」になることができたのです。
その後も、「アスリート思考」を追求し続け、入社3年目には、卓越した生命保険営業のエキスパートに与えられる称号「TOT(Top of the Table)」を獲得。最終的には、TOT基準の4倍を超える成績を上げることができ、プルデンシャル生命史上最高の営業成績(当時)を打ち立てることもできました。そして、在籍8年でプルデンシャル生命を退職。2020年に、AthReebo(アスリーボ)という会社を設立して、現在に至ります。
AthReeboという社名は、Athlete(アスリート)とReborn(リボーン、再生)を掛け合わせたもので、文字通り「アスリートを再生する」という願いをこめています。
引退したアスリートに、働きながら社会やビジネスのことを学ぶことができる機会や場所を提供することを目的に、アスリーボという会社を設立。将来的には、我が社が、アスリートとして培ってきた能力・スキルを活かしながら、社会で活躍する「インフラ」となることで、「アスリートのセカンドキャリア」という言葉をなくしていきたいと考えています。
『超☆アスリート思考』は、アスリーボの事業目的にご賛同いただいている、野村忠宏さん(柔道)、伊達公子さん(テニス)、古田敦也さん(野球)、潮田玲子さん(バドミントン)のほか、川合俊一さん(バレーボール)、井上康生さん(柔道)、栗原恵さん(バレーボール)、福永祐一さん(元騎手・調教師)、松坂大輔さん(野球)など錚々たるアスリートにもご協力をいただいて、「アスリート思考とは何か?」について徹底的に深掘りしてまとめ上げたものです。
「アスリート思考」は誰にでも実践可能なものであり、愚直に実行すれば必ず「結果」に結びつく強力なスキルです。大切なのは、本書の内容を「知識」としてストックすることではなく、コツコツと実践し続けることです。誰にでもできる小さなことを、誰にも真似できないレベルで徹底的にやり続けることこそが、その神髄なのです。
そして、そのプロセスを誤魔化すことなく一歩ずつ歩み続けることで、自分への信頼感、自分への肯定感が養われることによって、日々の充実感や、人生の豊かさをも実感できるようになります。ぜひ、僕たちと一緒に「アスリート思考」を実践して、その感覚を実感していただければと心より願っています。
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