セルビアのアレクサンダル・ヴチッチ大統領が27日に辞任した。1年以上にわたる学生主導の抗議活動と政府の汚職疑惑に対する国民の不満が高まる中での退任であり、憲法上3期目の出馬ができない同氏は、10月に予定される国民議会選挙で与党の首相候補を目指す。首都ベオグラードの大統領府前で支持者を前に演説した同氏は、9年間の任期中に平和と安定を維持してきたと強調した。
ノヴィ・サド駅の屋根崩落事故と抗議運動の広がり
2024年11月、セルビア第2の都市ノヴィ・サドの中央駅で起きた屋根崩落事故が、今回の政局混乱の直接的な引き金となった。この事故により16人が死亡し、駅の改修工事に深く関わっていた与党・進歩党の10年以上にわたる政権運営に対する怒りが爆発した。学生や教師、労働者、農家といった幅広い層の市民が参加するデモが発生し、側近の相次ぐ辞任も抗議者の怒りを鎮めるには至らなかった。警察の暴力行為が告発されたことで、デモはさらに騒乱へと発展した。
進歩党政権の歩みと内外の政策路線
アレクサンダル・ヴチッチ氏は2014年に首相に就任し、2017年に大統領として初めて選出されて以来、10年以上にわたりセルビア政界の中心に君臨してきた。同氏が率いる親ロシア派のポピュリスト政権は、コスト削減策をめぐる疑惑でも国民の批判に直面していた。欧州連合への加盟を望むと公言する一方で、ロシアと緊密な関係を築き、中国の投資を受け入れる姿勢を維持してきたことが、同国の外交および内政の大きな特徴となっている。
今年2度目の投票となる国民議会選挙の行方
セルビア憲法は、大統領辞任後3カ月以内に後任を決める選挙を実施することを定めている。新大統領が選ばれるまでは、進歩党所属のアナ・ブルナビッチ国民議会議長が暫定大統領を務めることになった。ヴチッチ大統領の辞任に伴い、国民は年末までに2回投票を行うことになる。大統領選は、抗議参加者らの要求で実現した10月下旬の議会選挙から1カ月以上たった時点で行われる予定であり、政界のトップ維持を狙う動きが続いている。
抗議運動を背景にした主要政党の対立構図
近く行われる国民議会選挙では、ヴチッチ氏が率いる中道右派与党のセルビア進歩党が、学生主導の反汚職運動である「学生の勝利」や、親欧米派の野党連合「欧州のセルビア」と直接対決することになる。公共放送RTSによると、ヴチッチ氏は辞任に際して憲法上の権限を行使し、過去1年半にわたる恐れのある出来事に関連して容疑をかけられていた学生23人や党員を含む49人に恩赦を与えた。この異例の措置が、今後の選挙戦や市民の反応にどのような影響を与えるのか。
今後の見通しと新政権に向けた政局の動向
来年満了予定だった任期を前倒しする形での辞任劇は、セルビアの政治体制に大きな波紋を広げている。10月下旬の議会選挙を経て、ヴチッチ氏が首相候補として政権復帰を果たすのか、それとも野党勢力や学生主導の運動が新たな政権を形作るのかが最大の焦点となる。憲法規定に基づく短期間での大統領選と議会選の連続実施により、同国の政治的安定と民主主義のあり方が厳しく問われることになる。