地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が掲げる「1・5度目標」の達成が、極めて困難な状況に直面しています。国連環境計画(UNEP)は9月の最新報告書で、産業革命前からの気温上昇が数年以内に1・5度を超えるとの見通しを示しました。専門家は、現状のままでは今世紀末までに2・6度上昇する可能性を指摘しており、気候変動への対策は重大な転換点を迎えています。
1・5度目標を巡る科学と政治の乖離
2015年に採択されたパリ協定は、世界の平均気温上昇を「2度より十分低く保ち、できれば1・5度に抑える」ことを国際的な目標として定めました。その後、0・5度の差が生態系や人々の生活に及ぼす影響の大きさから、1・5度が対策の中心的な基準となりました。東京大学の江守正多教授(気候科学)は、この目標について「深刻な被害を受ける脆弱な国を見捨てないという決意の表れ」と解説します。しかし、長期的な気温上昇はすでに1・4度に迫っており、目標の超過は避けられない現実として突きつけられています。
現状維持では今世紀末に2・6度の上昇
報告書が提示する予測は、温暖化の抑制がどれほど厳しい状況にあるかを浮き彫りにしています。現状のペースで二酸化炭素(CO2)が排出され続けた場合、今世紀末までには2・6度の上昇が見込まれます。各国が現在掲げているCO2削減目標をすべて達成したとしても、最も楽観的な推計で1・8度前後に達する見通しです。千葉県佐倉市で発生した9月22日の大雨による冠水被害のように、猛烈な雨の頻度が増えている現状は、温暖化がすでに私たちの生活圏へ深刻な影響を与えている証拠です。
排出実質ゼロ達成への高い壁
気温上昇を食い止めるための「最善の選択肢」として、UNEPは世界全体での「排出実質ゼロ」の早期達成を挙げています。これは森林による吸収などを含め、CO2の排出量と除去量を差し引きゼロにするという道筋です。江守教授は「理論的には可能」としつつも、その実現には極めて高いハードルがあると指摘します。世界の年間CO2排出量は依然として過去最高を更新し続けており、排出実質ゼロを達成すること自体が極めて困難な課題であるためです。
今後の見通しと気候変動対策の行方
1・5度目標の超過が現実味を帯びる中、国際社会には排出削減のさらなる加速が求められています。報告書が示す通り、気温上昇のピークを可能な限り小さく抑えることは、被害を最小限に留めるための生命線となります。今後は、既存の削減目標の達成だけでなく、大気中からのCO2除去技術の導入スピードが、地球の未来を左右する重要な鍵となるでしょう。気候科学者らが警鐘を鳴らす中、各国の政治的決断と具体的な行動がより一層重要度を増しています。