恒星間天体として検出された3番目の物体である彗星「3I/ATLAS」が、マイナス240度(華氏マイナス400度)を下回る極低温の環境で形成されたことが、ノースアンブリア大学のレア・フェレレク博士らによる研究で明らかになりました。この結果は、同天体が故郷となる恒星系において、恒星から遠く離れた氷に覆われた辺境で誕生したことを示唆しています。
分光観測による内部組成の解明
研究チームは、アイザック・ニュートン・グループ(ING)の4.2メートル・ウィリアム・ハーシェル望遠鏡(WHT)に搭載された新型マルチオブジェクト分光計「WEAVE(WHT Enhanced Area Velocity Explorer)」を使用しました。3I/ATLASが太陽の背後から現れ、太陽系を離脱し始めた際に放出された電離ガスを分析したところ、二窒素(N2)、一酸化炭素(CO+)、二酸化炭素(CO2+)、水素(H2O+)、および炭化水素(CH+)の5種類のイオンが同時に生成されていることを特定しました。
特に、二窒素ガスと一酸化炭素の比率を測定したことで、形成時の極低温環境が導き出されました。研究を主導したノースアンブリア大学工学・物理学・数学部のリサーチフェローであるレア・フェレレク博士は、ロイヤル天文学会(RAS)へのプレス声明の中で、この天体が窒素に富んでいることが、故郷の恒星から遠く離れた極低温環境で形成されたことを物語っていると説明しています。これは、太陽系のエッジにあるエッジワース・カイパーベルトやオールトの雲にある天体と似た環境であると考えられます。
特異な化学組成:メタノールの大量検出
また、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(ALMA)を用いた別の研究では、3I/ATLASが極めて大量のメタノールを含んでいることが判明しました。アメリカン大学のネイサン・ロス教授らが主導したこの調査によると、3I/ATLASのメタノール含有量は、太陽系で知られているほぼすべての彗星を上回っています。

ALMAのチリにあるアタカマ・コンパクトアレイを用いて2025年後半に観測を行った結果、メタノール(CH3OH)とシアン化水素(HCN)の比率が約70および120と測定されました。また、シアン化水素が主に彗星の核から放出されるのに対し、メタノールは核と、コマ(彗星の核を囲むガスと塵の雲)の中に浮遊する氷粒子からも放出されていることが突き止められました。これらの小さな氷粒子は「ミニ彗星」のように振る舞い、太陽に近づき温度が上昇することでガスとなり、さらなるメタノールを放出します。
恒星間天体研究における意義と今後の展望
今回の研究成果をまとめた論文は、Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載されました。恒星間天体は、他の恒星系における惑星や小天体の形成条件を、直接訪問することなく研究できる貴重な機会を提供します。共同著者のルーベン・サンチェス=ヤンセン氏は、WEAVE-LIFUのような高感度な大型積分視野分光器が、彗星や太陽系天体研究の新たなフロンティアを開いていると指摘しています。

3I/ATLASの観測データまとめ
| 項目 | 詳細・数値 |
|---|---|
| 形成温度 | -240°C (-400°F) 未満 |
| 検出された主要イオン | N2, CO+, CO2+, H2O+, CH+ |
| 化学的特徴 | 太陽系彗星を上回る大量のメタノール含有 |
| メタノール/HCN比 | 約70 および 120 |