NASAの火星探査車パーセベリアンスが、火星の夜空において地球が衛星フォボスの背後に隠れるという、極めて稀な天体現象を記録しました。これは、人類が別の惑星の表面から、地球が他の天体に遮られて消える様子を記録した初めての事例となります。
「掩蔽」現象の記録と撮影の詳細
この現象は、天文学的に「掩蔽(えんぺい)」と呼ばれます。掩蔽とは、観測者の視点から見て手前にある大きな天体が、より遠くにある天体を完全に遮ることで起こります。今回の観測は、ミッション開始から1,907火星日(sol)にあたる7月2日の現地太陽時午後7時頃、パーセベリアンスに搭載されたカメラ装置「Mastcam-Z」によって行われました。
公開された一連の画像では、地球が左上から右下へと対角線上に移動する一方で、フォボスが左下から右上へと逆方向に移動する様子が捉えられています。合成画像の3枚目において、2つの天体が一直線に並び、地球がフォボスの影の縁に隠れて一時的に消失しました。NASAのジェット推進研究所(JPL)でパーセベリアンスのMastcam-Z副首席研究員を務めるジャスティン・マキ氏は、この合成画像を別の惑星の表面から撮影された、フォボスによるフォトボム(写り込み)を伴うユニークな地球の自画像と表現しています。
地球とフォボスの劇的な対比
撮影時、パーセベリアンスはジェゼロ・クレーターの縁に位置しており、そこから見た地球とフォボスのサイズおよび距離には極めて大きな差がありました。
- フォボス: 最大幅約17マイル(27キロメートル)のジャガイモのような形をした不規則な衛星です。火星からわずか4,850マイル(7,800キロメートル)の軌道を周回しているため、地球から見た月のおよそ3分の1の幅で観測されました。
- 地球: 撮影地点から約1億9,500万マイル(3億1,400万キロメートル)離れており、画像上ではわずか1ピクセル分ほどの小さな光の点として映し出されました。
スペースサイエンス研究所のマーク・レモン氏は、フォボスは1日に3回火星の空を横切り、地球は数ヶ月にわたって視認可能であるものの、この2つが完全に重なる瞬間を捉えるには計画と少しの運が必要であったと述べています。レモン氏はこの観測の計画および合成画像の作成を担当しました。
火星からの天体観測と他の現象
今回の掩蔽以外にも、パーセベリアンスは火星表面からの様々な天体現象を観測しています。例えば、フォボスやダイモスが太陽の前を横切る現象を記録しており、これらは非公式に「火星の日食」と呼ばれることもあります。

天文学的な定義において、今回の「掩蔽」は、一つの天体が別の天体の影に入る「食」や、小さい天体が大きい天体の表面を横切る「通過(トランジット)」とは区別されます。今回のケースは、手前の天体が遠くの天体を完全に遮ったため、掩蔽に分類されます。
パーセベリアンスの運用体制
パーセベリアンスは2020年に打ち上げられ、2021年2月にジェゼロ・クレーターに着陸しました。この探査車は、Caltechが管理するNASAのジェット推進研究所(JPL)によって製作され、ワシントンの科学ミッション局の管轄下で運用されています。