フランス政府が米国のテクノロジー企業を信頼していないというのは、あながち間違いではない。実際のところ、フランスは自国のデータやサービスを米国企業に委ねることに強い不信感を抱いている。
フランスの公務・国家改革担当副大臣のDavid Amiel氏は、フランスが「デジタル面での独立性の回復」に注力していると明言した。同氏は、学術的な交流や機密データ、戦略的なイノベーションが欧州域外の主体にさらされるリスクを冒すことはできないと述べている。
こうした背景から、フランス政府はデジタルインフラに対する主権を確保するため、米国企業のサービスを政府機関から排除する動きを強めている。公務員が利用するビデオ会議プラットフォームを「Microsoft Teams」や「Zoom」から、国産の「Visio」へと移行させる計画だ。
パリ当局はこの決定について、米国のクラウドやコラボレーションプラットフォームへの依存を断ち切るための戦略的な決別であると位置付けている。これをフランス政府は、10年以上前から欧州連合(EU)内で提唱されてきた「デジタル主権」という広範な基本原則と明示的に結び付けている。この動きは、EU諸国が域内の技術企業やクラウドサービス、プラットフォームに依存すべきであるという主張に基づいている。
欧州以外のプラットフォームは更新されない
EU当局は、米国がホストするサービスを利用することは、政府内の議論が外国の法律にさらされるリスクを意味すると主張する。例えば、2018年に制定された米国におけるデータの合法的海外利用を明確化する法律(CLOUD Act)は、サーバーが欧州内に設置されている場合であっても、米国政府によるデータへのアクセスを認めているからだ。
詳しい話に移すと、新たなビデオ会議計画に基づき、MITライセンスのオープンソースソフトウェア(OSS)であるVisioが全ての省庁や政府機関に導入される。これは政府職員にとって標準のツールとなり、最終的には唯一のビデオ会議ツールとなる予定だ。なお、ここでいうVisioは、Microsoftが提供する同じ名称のソフトウェアとは一切関係がない。
今後の移行プロセスにおいて、Zoom、Microsoft Teams、「Google Meet」「Webex」「GoToMeeting」など、全ての非欧州製プラットフォームのライセンスは更新されない。各部門の移行を進め、2027年までの完全導入を目指す方針だ。
このVisioは、省庁の垣根を超えたデジタルを推進する「DINUM」が同国の主権的なビデオ会議プラットフォームとして開発したものだ。開発にはオランダとドイツも協力している。技術スタックには、「Python」向けウェブフレームワークの「Django」、ユーザーインターフェース(UI)構築用のJavaScriptライブラリーの「React」、そして、スケーラブルなビデオ会議システム「LiveKit」を採用している。機能面では、HDビデオ通話や画面共有、チャットなどが提供される。
Visioは約1年間のテスト運用を経て、既に約4万ユーザー以上が常時利用しており、近い将来には約20万人の職員へ拡大する予定だ。
また、Visioは「Suite Numerique」プロジェクトという広範な取り組みの一部でもある。これは「Gmail」や「Slack」など、現在フランス当局が使用している米国製サービスを代替するために設計された、オープンソースの主権的ソフトウェア群だ。最新の会議製品としてVisioは、フランスのスタートアップ企業のPyannoteの技術を用いたAIによる文字起こしや話者識別機能を備え、「Matrix」プロトコルで動作する既存の安全なメッセージングシステム「Tchap」とも連携している。
当局によれば、このソフトウェアスタックは、強固な暗号化や国家安全保障上の要件を満たすべく、フランスの国家情報システムセキュリティ庁(ANSSI)の支援を受けて開発されている。
フランスがこの措置に踏み切った理由は、デジタル主権の維持やセキュリティの向上だけではない。フランス大統領府は、この切り替えをコスト削減と国内産業の活性化の手段としてもアピールしている。政府の試算によれば、外部のビデオ会議ライセンスの使用を停止することで、Visioに移行する10万ユーザー当たり年間で約100万ユーロを節約できるという。この動きは、EUレベルで推進されている支配的な米国のクラウドやソフトウェアベンダーへの依存を減らそうとする動きとも密接に一致している。欧州議会は最近、重要なデジタルインフラやAIプラットフォームに対する管理を強化するよう促す決議を採択したばかりだ。
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