オーストラリアの研究チームは、遠隔操作で被災者に薬液を投与可能な「パラメディック(救急救命)サイボーグ昆虫」を開発した。瓦礫の下など従来のロボットでは到達困難な場所へ侵入し、自動注射機構を用いて救命処置を行う。2026年8月に学術誌「Advanced Science」で発表された研究報告により、災害救助における新たな手段として注目されている。
遠隔操作で救助を行う「Paraborg」の仕組み
クイーンズランド大学とニューサウスウェールズ大学の研究者らが開発した「Paraborg(パラボーグ)」は、生きた昆虫の身体能力を救命医療に応用したシステムだ。ITmediaによると、ベースとなるのは大型のヨロイモグラゴキブリで、これに制御用基板と小型の自動注射機構、あるいは超小型カメラが搭載されている。人間のオペレーターが昆虫の触角や尾角に電気刺激を与えることで、被災者の位置まで正確に誘導し、薬剤投与に適した場所で静止させることが可能だ。
化学反応を利用した自動注射機構の技術
パラボーグに搭載された自動注射機構は、電気信号による「射出」と「注入」の2段階で動作する。まず、遠隔操作でニクロム線を加熱して釣り糸を焼き切り、バネの力で注射器を標的に向かって射出する。ITmediaの解説によれば、注射器の内部では、隔離膜が破れることでクエン酸と炭酸水素カリウムが混合される仕組みだ。この化学反応で発生した二酸化炭素の圧力により、ゴム栓が押し出され、注射針を通じて薬液が自動的に注入される。
実証実験で見えた成功率と課題
研究チームは、複数のサイボーグ昆虫が連携する運用シナリオを想定し、実証実験を行った。カメラを搭載したオブザーバー役の昆虫が被災者を発見し、その映像を基に薬剤投与役の昆虫を誘導する手順だ。人肌を模したシリコーンを標的とした実験では、ナビゲーションから薬液注入までの全工程の成功率は72%(25回中18回)を記録した。一方で、標的から約15〜25cm離れた位置からの射出では注射器が刺さらないケースや、射出時の急旋回による失敗も報告されている。
災害現場での活用に向けた展望
- 研究論文:Paraborg: Paramedic Cyborg Insects for In Situ Emergency Drug‐Delivery
- 掲載誌:Advanced Science(2026年9月発行、8月5日オンライン公開)
- 主な開発機関:クイーンズランド大学、ニューサウスウェールズ大学