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2024-09-06 09:30:00
吉野川に佇む「吉野杉の家」。
ライフインサイダー
奈良・吉野。春になると、千本桜が山をピンク色に染める、日本随一の桜の名所だ。
奈良市から、世界遺産・紀伊山地を抜けて和歌山県・新宮市まで続く国道169号線を走ると、吉野地域を流れる吉野川が見えてくる。
周囲の建物より1段下がった土手部分に、ポツンと姿を表す一軒家が、「吉野杉の家」だ。実は日本で唯一、民泊サービスでお馴染みのAirbnbが手がけた家である。
吉野川を独り占め。三角屋根の泊まれる名建築

なぜ、Airbnbが吉野に家を建てたのか。経緯を説明する前に、まずは特徴的な建物を見ていこう。
吉野のスギとヒノキをふんだんに使用した、地上2階建て。外観は奈良の伝統的な「大和棟」を模しているという。
ドアを開けると、早速木の香りに癒される。
現在は宿泊は1棟貸しのみ。1階部分は、リビング・キッチン・シャワー・トイレを設ける。乾燥機付き洗濯機も完備。

大きな窓を開けて縁側に出れば、吉野川の景色を眺めながらのんびりできる。
川に面する片側は全面ガラス張り。夜明けから夕暮れまで、大きな絵画作品のように吉野川の景色が見える。
tokyo bikeの自転車が4台あるので、滞在中は付近をサイクリングするのもいいだろう。

芸術的な線を描くのは、2階へと上がる階段だ。

屋根の三角部分がベッドルームだ。
木の階段を上がれば、2階は左右に計2室のベッドルームを設けている。本来屋根裏にあたる、屋根の三角部分だが、殺風景な印象は受けない。

日中と夜で表情を変える、2階のベッドルーム。
その理由は、建物側面の三角部分に大きな窓ガラスがはめ込まれているからだ。朝日から夕日まで、差し込む光によって、部屋の雰囲気がガラリと変わる。
ホストは「地元の人」

移築当時の「吉野杉の家」。
Airbnbジャパン
さかのぼること2016年。当時、このアイコニックな建築は、吉野ではなく東京・青梅で開かれた「HOUSE VISION 2016 TOKYO EXHIBITION」の展示の1つだった。
当時Airbnbのデザインチームだった「Samara※」と建築家・長谷川豪がタッグを組み、Airbnbで世界初のコミュニティハウスとしてスタートした。
※現在SamaraはAirbnbからスピンオフ済み。
当初から吉野町協力のもと移築を前提としており、建設には地元の大工や職人が携わった。
こうして、この地へと里帰りを果たし、以降8年近く日本や海外から吉野へ訪れる人を受け入れるコミュニティハウスとしての機能を果たしている。
Airbnbの施設と聞いて、気になるのがホストの存在だ。吉野杉の家では、地元の材木場で働く人など地域の人によって運営されている。
コロナ前は、吉野町より一定の金額が支払われる形で、夜間もホストが常駐したり、朝食を提供したりしていたという。
さらに、今回はホストにお願いして、「吉野杉の家」の理解を深めるべく、周辺の材木所を見学をさせてもらった。
林業のまち・吉野

木の香りが包み込む「吉野貯木場」エリア。
「吉野杉の家」から10分ほど歩くと、吉野の製材所の立ち並ぶ「吉野貯木場」エリアに着く。
古くは、大阪城や伏見城にも吉野材が使われたという吉野材。吉野川の上流で伐採された木は、吉野で製材されたのち、大阪方面まで運ばれていった。
このように、水運にも恵まれた立地だったことから、ここ一帯の林業が根付いていったのだ。

節と呼ばれる茶色い模様が見られないのが、吉野材の特徴だ。
建築材のほか、吉野材は酒樽の最高級品材としても重宝され、「樽丸林業」の異名も持つ。その理由には、吉野杉の「節(木材に見られる茶色の模様)がない」「目が細かい」「まっすぐ」という特徴が関係する。

今回訪れた「吉野中央木材」も吉野川沿いに位置する。

ずらりと並べられたスギとヒノキの原木は、原木市場で目利きの担当者が競り落としたものだ。

太い原木にノコギリが通っていく。

ノコギリが通ると、パッカーンと大きな音を立てて板状に切り取られた。
ここから皮を剥かれて、「送材車付帯ノコ盤」と呼ばれる機械にかけられ、製材の工程に入る。
ここでは、次に控える乾燥の工程で数センチ縮むことを想定して、仕上がり寸法よりも大きめにカットする。

この第一の製材工程は木取りと呼ばれ、1本の原木から無駄なく品質の良い部分をどれだけ切り取れるかは、職人の腕にかかっている。ノコギリの刃をどの方向に入れるかを、職人たちは毎回真剣に話し合っていた。

高く積み上げられた木材たち。番号で振り分けられて管理されている。
その後、低温除湿乾燥機にかけられて、1週間乾燥したのち、節の有無・サイズ・色味などから等級をつけていく。ここからオーダーをもとに材を選別し、最終製材を行ったのち、出荷という流れだ。
等級をつける作業から選別まで、作業は職人による目視でおこなわれる。まさに、適材適所の言葉通り、その材の持つ力を最大限発揮できる場所が選ばれていくのだ。
「愛を感じる家」
夜の照明は、透ける木目が美しい。
このように、吉野の職人の技が結集した吉野杉の家。
見た目のインパクトはさることながら、木目をぼんやりと透かしながら漏れる明かりなど、細部にまで技術が詰まっている。

夕暮れの時間の「吉野杉の家」。夕日が部屋全体に差し込む。
すでに完成から8年近く経っているため、室内は清潔に保たれているが、外見はもう新品の見た目ではない。
だが苔むした姿は、今や吉野の景色の一部となったことを表している。
ホームページに掲載された文も印象的だ。
「人がいない建物。それはただの彫刻に過ぎません。絶賛し崇めることはできても、愛を感じることは稀です」
ただの彫刻ではない、吉野と訪れる人を繋ぐ「愛を感じる家」を、ぜひ宿泊を通じて体感してほしい。
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