住宅危機や家賃高騰に端を発する大規模な抗議行動が発生したスペインで、ペドロ・サンチェス首相は11月29日に総選挙を実施することを決めたと、news.livedoor.comが報じた。.
87歳女性の強制退去問題が引き起こした住宅危機とデモ
スペイン国内では、住宅不足や家賃の高騰が深刻な政治問題に発展している。マドリードで暮らしていた87歳女性のマリカルメン・アバスカルさんは、70年以上住んでいたアパートの家賃が500ユーロから2650ユーロへと5.3倍に値上げされ、支払うことができずに9月23日に強制退去となった。アバスカルさんは体調を崩して入院し、その経緯が広く知れ渡ったことで全国的な抗議デモが巻き起こった。家主は値上げを撤回したものの、アパート復帰の合意直後である10月7日にアバスカルさんは亡くなった。
2026年第2四半期時点で、スペインの住宅価格は前年比で12.2%上昇している。特にマドリードやバルセロナなどの都市部で賃貸価格が跳ね上がっており、国内全体で約70万戸の住宅が不足している。民間の投資会社などが古いアパートを買い取り、家賃を数倍に引き上げる事例が相次いだ。こうした状況を受けてサンチェス政権は9月29日、弱い立場の賃借人の立ち退きを2030年まで停止することや、観光アパートへの増税、投資会社による住宅用不動産の購入制限などを盛り込んだ2つの政令を即日公布した。
少数与党の政権基盤と急進する極右政党VOXの動向
即日公布された政令の施行には1ヶ月以内の議会承認が必要だったが、社会労働党と左派のスマール連合による少数与党政権のため、いずれの政令も議会で否決された。保守派の国民党や極右のVOXだけでなく、中道右派のカタルーニャのための連合も承認に反対した。事態を打開するため、サンチェス首相は11月29日の総選挙実施を決断した。2023年7月23日の総選挙では国民党が第一党となったが、VOXの議席減により過半数に届かず、サンチェス首相が急進左派や地域政党の支持を得て政権を維持してきた。
1936年2月に左翼の人民戦線内閣が発足したのち、同年7月にフランコ将軍のクーデターからスペイン内戦が勃発した歴史的経緯がある。第2次世界大戦後も続いたフランコ独裁は1975年の死去まで続き、1977年に民主的な選挙が実施された。長年にわたり極右の伸長が抑えられてきたスペインだが、生活苦に不満を抱く若い有権者の間で、VOXの主張を支持する声が高まっている。党首のサンティアゴ・アバスカルが率いるVOXは、LGBTの権利拡大反対や移民排斥を掲げ、「スペインのトランプ」と呼ばれる。
米トランプ政権との外交対立とイラン攻撃への不参加
フランスやドイツなどで移民排斥を掲げる極右政党が伸長するなか、スペインでは左派政権がトランプ米政権の外交や安全保障政策に正面から異を唱えている。米国とイスラエルによるイラン攻撃に際し、サンチェス政権は米軍と共同運営するモロン空軍基地およびロタ海軍基地の使用を許可しなかった。トランプ大統領は「スペインとのすべての貿易を止めるつもりだ」と反発したが、サンチェス首相は「報復を恐れて、われわれの価値観や利益に反する行為に加担しない」と明言した。
トランプ大統領はスペインに対し、2026年3月にアメリカとの貿易停止を指示した。サンチェス首相がNATOの防衛支出拡大目標への即時対応を拒否したこともあり、トランプはスペインを非難し続けている。2026年7月のNATO首脳会議からの帰路では、貿易停止や防衛費増額要求について言及したが、スペインの防衛費は対GDP比で2025年に2%へ増額されたものの、2026年にさらなる増額を行う予定はなく、サンチェス首相はトランプの圧力を聞き流している姿勢を見せている。
ヨーロッパ諸国による中国との関係強化と今後の展望
ヨーロッパは中国との関係を深めることでトランプ政権を牽制する動きを見せている。イラン攻撃などによるNATOの結束の乱れを受け、ヨーロッパでは経済的パートナーとして中国を重視する流れが強まっている。サンチェス首相は4月14日に中国を訪問して習近平と首脳会談を行った。フランスのマクロン大統領が2025年12月、イギリスのスターマー首相が2026年1月、ドイツのメルツ首相が2026年2月にそれぞれ中国を訪問しており、ヨーロッパ首脳の北京訪問が相次いでいる。
世界がアメリカと中国によるG2の時代となるなか、ヨーロッパは国際社会での存在感を維持するために外交努力を展開している。住宅危機を背景にした大規模な抗議行動や野党勢力の伸長に直面するサンチェス政権は、11月29日の総選挙に向けてどのような信任を得るのか。