ロシア当局が世界保健機関(WHO)に対し、イルクーツクのペスト対策研究所でペストの感染例は記録されていないと報告した。研究者の女性が死亡し約200人が隔離された件をめぐり、当局の異例の大規模措置と実際の病原体を巡る疑問が浮上している。
ロシア当局がWHOにペスト感染例なしと報告
ロシア当局は、イルクーツクでペストの感染例は記録されていないとWHOに伝えた。この情報は、WHOが10月6日に明らかにしたものである。ペスト対策を研究していたダリア・シピロワが肺ペストの疑いで死亡したとの報道をめぐり、事態の真相を追う動きが広がっている。生物兵器が関与したことを示す証拠はないが、ロシア当局の対応は通常のペスト調査としては異例の規模だったと専門家から指摘されている。
イルクーツクの研究所での女性研究者死亡と大規模隔離
事態が国際的な注目を集めたのは10月2日だった。イルクーツクのペスト対策研究所に勤務していた女性が肺ペストの疑いで死亡し、接触した約200人が医学的な経過観察と検査の対象になっているとメディアが報じた。WHOの広報担当者が10月6日に本誌へ送ったメールによると、ロシア当局は女性の症状が当初、典型的な急性呼吸器ウイルス感染症のように見えたと説明している。
旧ソ連の生物兵器計画と専門家が指摘する不自然さ
ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターの上級研究員であるアメシュ・A・アダルジャは、旧ソ連には数十年にわたる大規模な攻撃用生物兵器計画があり、ペスト対策研究所の一部もその計画に関わっていたと本誌に語っている。アダルジャは、ペストを掲げているからといってそこで扱っているのがペストだけとは限らず、様々な生物因子を扱っていると指摘した。さらに、報道されているロシア当局の対応には、通常のペスト症例への対応としては不自然に見える点がいくつかあるとの見方を示している。
WHOとCDCによる情報収集と監視の現状
WHOは10月3日、公衆衛生上の緊急事態となり得る事案の報告について定めた国際保健規則に基づき、ロシア当局に情報提供を求めた。WHOは女性が発症した肺炎の原因となった病原体について追加情報を求めており、必要であればロシア当局を支援する用意がある。一方、アメリカ疾病対策センターは10月6日の声明で、肺ペストが疑われる症例が発生したとの報道を把握しており、状況を注意深く監視していると発表した。
肺ペストの感染リスクとアメリカ政府の評価
アメリカ疾病対策センターは、肺ペストが濃厚接触時の飛沫を通じて人から人へ感染する可能性があると説明している。感染者を速やかに特定して治療し、接触者の経過を観察することが重要な公衆衛生対策となる。現時点でアメリカに広範な脅威が及んでいる兆候はないが、関係省庁は対応する準備を整えており、今後も状況を注視していく方針を示している。
病原体特定とロシア当局の措置をめぐる今後の行方
ロシア当局による否定とWHOへの報告を経て、焦点はペストそのものから、女性の病気を引き起こした病原体は何だったのかという点に移っている。なぜロシア当局が大規模とみられる封じ込め措置を取ったのかについても答えが出ておらず、アメリカ政府や国際機関による今後の情報評価と追加情報の公開が待たれている。