マサチューセッツ州で3人の子供を殺害した罪に問われていた元看護師、リンジー・クランシー被告の裁判は、陪審員の間で意見が一致せず、ミストライアル(審理無効)に終わった。陪審員団のリーダーであるロニ・カールソン氏ら元陪審員らの証言により、11人が被告に刑事責任はないとする判断に傾いていた一方で、1人の陪審員が最後まで拒絶したという審議の舞台裏が明らかになった。
11対1の対立と「合理的疑い」を巡る混乱
陪審員12人で構成されたグループは、7日間にわたって計36時間の審議を行った。陪審員団のフォアパーソン(リーダー)を務めたカールソン氏によると、最終的な分かれ方は11対1であったという。11人の陪審員は、被告が精神疾患により刑事責任を問えない(insanity)と判断する準備ができていた。

カールソン氏は、ある時点で保留していた陪審員が「合理的疑い(reasonable doubt)」があることを認めたため、確信を持って3枚の評決書に署名したと語った。しかし、その直後に当該陪審員はそれでも、彼女が精神異常により無罪であるとは言えないと述べ、最終的な合意を拒否した。別の陪審員であるポーラ・デブリン氏は、この保留した陪審員について、他者の意見を全く聞き入れない非常に傲慢な態度であったとNBC10に語っている。
審議中には緊張が高まり、怒鳴り合いや名前を呼び合うなどの衝突もあった一方で、互いをサポートし合う抱擁などの場面もあったという。また、被告側の弁護人は、この保留した陪審員が法の指示である「合理的疑い」を適用することを拒否しているとして、陪審員から除外するよう求めていた。
争点となった精神状態と事件の経緯
本件において、36歳の元分娩看護師であるクランシー被告は、2023年に5歳のコーラさん、3歳のドーソンさん、生後8カ月のカランさんの3人を絞殺した事実は認めている。そのため、裁判の焦点は「犯行時に善悪の判断ができたか」という刑事責任の有無に絞られていた。

- 検察側の主張: 被告は計画的に犯行に及んでおり、理性的に行動していたとして、第1級殺人罪での有罪判決を求めた。夫をわざと家から出させるために、子供の薬と夕食を買いに行くよう指示した点などを根拠に挙げた。
- 弁護側の主張: 被告は産後精神病(postpartum psychosis)という稀な精神疾患に陥っており、頭の中で男性の声が命令していたと主張。不適切な精神疾患治療が原因で、刑事責任はないとして、精神科施設への無期限収容となる判決を求めた。
カールソン氏は、日記や義母の証言など、被告が子供たちを深く愛していたことを示す証拠が多く、
彼女は理性を失い、自分が何をしているか分からなかったはずだ
と述べた。陪審員を震撼させた911通報の内容
陪審員たちは、事件当夜に被告の元夫であるパトリック・クランシー氏が行った911番通報の音声を聞いた。この音声は法廷で再生されたが、放送はされなかった。

匿名を条件に取材に応じた陪審員(No.5)は、パトリック氏の内臓をえぐるような、血の凍るような叫び声を聴いたことは忘れられないとし、あの通報を聞いた後、私は以前の自分ではいられないと心境を語った。別の陪審員ケリー・ファリーナ氏も、パトリック氏の声にある絶望感は本物であり、陪審員室で再びその音声を聴いた際に涙したと振り返っている。
今後の展望と法的限界
ミストライアル後、被告の弁護人はドナルド・トランプ前大統領に恩赦を求める訴えを起こしたが、これは法的に不可能である。恩赦は連邦犯罪にのみ適用され、クランシー被告が直面しているのはマサチューセッツ州の州法に基づく罪であるためだ。また、有罪判決が出ていない現状では、恩赦の対象となるものがない。