イエメンのフーシ派武装勢力は、サウジアラビアの支援を受ける政府軍との激しい戦闘の末、同国の戦略的要衝であるモカを制圧し、紅海沿岸部への支配を急速に広げている。この動きはホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡という世界の2大要衝をめぐる安全保障の構図を劇的に変え、原油価格の高騰や世界的物流への深刻な打撃への懸念を高めている。
モカ陥落とバブ・エル・マンデブ海峡への脅威
イエメンの反体制派フーシ派は、同国の西海岸を完全に掌握するための大規模な攻勢を強めており、タイズ県にある戦略的な港湾都市モカを制圧した。この攻勢により、紅海への南の玄関口であり、アジアとヨーロッパを結ぶ主要な海上交通路であるバブ・エル・マンデブ海峡を見下ろす高地への接近が進んでいる。紅海沿岸や一部の島々の制圧はサウジアラビアや米国にとって戦略的打撃となると指摘されている。
フーシ派はモカのほか、内陸部の都市ハイスおよび同地域最大の軍事基地であるハリド・イブン・アルワリドキャンプも制圧したと主張している。フーシ派に近い推計によると、同勢力は2,320平方マイル(6,000平方キロメートル)以上の土地を掌握したとされる。また、イエメン政府軍の情報源は、フーシ派がモカを占領し、ハニシュ諸島に到達したと述べた。対してサウジアラビアが支援する政府軍は、バブ・エル・マンデブ海峡の対岸にある戦略的なペリム島の向かい側に位置するズバブに向けて南へ撤退した。
「西海岸の国軍は、イランが計画し支援したフーシ派の攻撃に立ち向かう中で、ここ数日間にわたり犠牲者や負傷者という重い代償を支払った。」ターレック・サレハ准将、イエメン政府軍司令官(Theguardian経由)
エネルギー輸送への打撃と二つの要衝の掌握
ホルムズ海峡を通じた海上交通が依然として大幅に制限される中、今回の事態は世界の貿易とエネルギー供給網にとって新たな重大な危険を突きつけている。欧州平和研究所の上級イエメン顧問であるヒシャム・アル・オメイシ氏は、紅海側の要衝が脅かされる深刻さを次のように警告している。
「今やイランはアラビア半島の片側であるホルムズ海峡を支配し、そして今やフーシ派が半島の反対側でバブ・エル・マンデブ海峡を支配している。それは基本的に、原油価格、商品、そしてその他すべての価格を急激に上昇させることにつながる。」ヒシャム・アル・オメイシ、欧州平和研究所上級イエメン顧問(Fox News経由)
米国エネルギー情報局(EIA)が9月9日に発表した報告書によると、2026年第2四半期にバブ・エル・マンデブ海峡を通過した原油および石油製品は、2025年第4四半期の1日あたり540万バレルから810万バレルに増加した。一方で、ホルムズ海峡の流量は2,160万バレルから490万バレルへと急落した。EIAはこの傾向について、サウジアラビアがホルムズ海峡を避けるため、東西パイプラインを通じて紅海側のヤンブー港に原油を迂回させていることが一因であるとしている。
サウジアラビアの空爆と内部分裂に揺れる政府軍
情勢の悪化を受けてサウジアラビア軍は空爆を活発化させており、フーシ派によるエネルギー施設や南部都市へのミサイル攻撃への対抗として、一連の空爆を実施した。9月3日から7日の間にサウジアラビア軍は少なくとも15回の攻撃を行い、さらに木曜日にはフーシ派の目標に対して最大40回の空爆を実施した。紛争データモニターのAcledは、この5日間の期間だけで276人が死亡したと推定している。

ロンドンを拠点とするセキュリティシンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)のイエメン専門家バラ・シバン氏は、状況が制御不能に陥っていると述べている。また、政府軍の有効性は内部分裂やサウジアラビアからの外部圧力によって弱まったとの分析がある。さらにアル・オメイシ氏は、撤退した政府軍が残した軍事資材、特に軍事キャンプにあった装備、弾薬、車両、ドローンがフーシ派に渡り、他の戦線で政府軍に利用される危険性を指摘している。
米国の関与と広がる地政学的緊張
国際的な外交・安全保障上の圧力も強まっている。米国政府高官は、紅海の航行の自由を確保するという核心的な国家安全保障上の利益を守る姿勢を示しつつ、地域の安全保障上の課題に対処する上で地域のパートナーを支援する方針を強調している。また、ドナルド・トランプ氏は水曜日、11月初旬の米中間選挙までイランとの戦争が終わることは期待していないと認めた。
フーシ派の目的は、紅海沿岸の支配を強めることで、米国によるイラン石油タンカーへの封鎖を解除させる取引にサウジアラビアと米国を追い込むことにあるとされる。また、サウジアラビアがパキスタンやトルコに軍派遣を求める「メッカ防衛協定」を発動するかどうかが注目されているが、この協定は防衛的な性質であり、イエメンでの軍事活動に適用される可能性は低いと考えられている。