ドナルド・トランプ大統領は10月7日、テキサス州サンアントニオでの集会で、米野球殿堂入りを果たしていない元名投手ロジャー・クレメンスに対し、民間人最高位の「大統領自由勲章」を授与すると突然発表した。
サンアントニオの集会での突然の発表とクレメンスの驚き
100分以上に及ぶ演説の終盤、熱気がやや薄れつつあった会場で、トランプ大統領は思いがけない発表を行った。会場に招待されていたロジャー・クレメンスがステージに呼ばれ、その場でマイクを握った。クレメンスは集まった聴衆を前に、自身の心境を率直に語った。
「言葉を失いました。これは明らかに私の現役時代のどんな実績をも凌駕するものです」
ロジャー・クレメンス、元MLB投手
ヒューストンで育ったクレメンスは、自身の故郷であるテキサス州でこの発表が行われたことにも深い敬意を示し、トランプ大統領について「勝者だ。あれこそが勝者だ」と称賛した。トランプは演説の中で、クレメンスを「史上最高の投手の一人であり、ひょっとすると最高かもしれない」と評し、今回授与する勲章は名誉ある野球殿堂よりも「はるかに上のステップだ」と強調した。

サイ・ヤング賞7度の圧倒的実績と殿堂入りを阻む薬物疑惑の壁
「ロケット」の愛称で知られるクレメンスは、ボストン・レッドソックス、トロント・ブルージェイズ、ニューヨーク・ヤンキース、ヒューストン・アストロズでの24年間にわたる現役生活において、史上最多記録となる7度のサイ・ヤング賞を受賞した。さらに、2度のワールドシリーズ優勝、11度のオールスター選出、ア・リーグのMVP受賞、2度の1試合20奪三振、2度の投手三冠達成など、野球史において極めて際立った経歴を誇る。しかし、現役時代からパフォーマンス向上薬(ステロイド)の使用に関する根強い疑惑がつきまとう。元トレーナーのブライアン・マクナミーによる証言や証拠などを基にした「ミッチェル報告書」にも数十回にわたって名前が記載された。こうした背景から、野球記者による殿堂入り投票では得票率が一度も65.2%を超えることがなく、専門の委員会による選考でも投票率は25%にとどまるなど、長年にわたり資格を得られずにいる。
トランプによる殿堂入りへの異例の介入とピート・ローズの先例
トランプ大統領は、こうした状況について不満を示し続けており、クレメンスがいずれは殿堂入りを果たすべきだと重ねて主張している。大統領はこれまでにも、ホワイトハウス在任中のスポーツ選手への勲章授与として、ゴルフ界の伝説的人物であるタイガー・ウッズや、元ダラス・カウボーイズのQBロジャー・ストーバック、ヤンキースの守護神マリアーノ・リベラ、ノートルダム大学フットボール元監督のルー・ホルツらに大統領自由勲章を贈ってきたほか、故エルヴィス・プレスリーや保守派ラジオ司会者の故ラッシュ・リムボーにも授与している。また、トランプは野球界の殿堂入りを巡る別の動きとしても、昨年に故ピート・ローズに対する連邦特赦を発令しており、これが契機となってMLBは歴代最多安打保持者であるローズに対する処分を解除した。トランプはローズについても殿堂入りを強く求めているが、これまでのところ実現には至っていない。
「彼はいつか殿堂入りすることになるだろうが、それに値する男だ。史上最高のスポーツ選手の一人であり、おそらく最高の投手だ」 ドナルド・トランプ、アメリカ合衆国大統領
今回のサンアントニオでの集会は、11月の期日前投票や間近に迫った中間選挙を控え、テキサス州の連邦上院議席を巡る共和党候補のケン・パクストン(テキサス州司法長官)と民主党候補のジェームズ・タラリコとの激しい選挙戦の最中に行われたものであり、過去30日間で3度目となるテキサス州訪問の一環であった。トランプは演説の中で、議会名誉黄金勲章と並んで民間人にとって最高峰の栄誉である同勲章をクレメンスに授与すると宣言し、その圧倒的な成績を再び讃えた。一方で、クレメンス自身は、トランプ大統領から直接この知らせを受けたことについて「この大統領、この人物からいただけるなんて、他に望む大統領などいない」と感激を露わにしている。

大統領自由勲章の重みと今後の日程
クレメンスに対する今回の授与が具体的にいつ行われるのかについては、現時点で日程は明らかにされていない。過去には、オリンピックでのチームUSA金メダル獲得に貢献したウィニペグ・ジェッツのゴールテンダー、コナー・ヘレブュックに対して授与することが2月に発表されたものの、非公開の式典等を除いては、未だに授与に至っていない例もある。1945年に創設されて以来、米国における最高の栄誉として発展してきた大統領自由勲章であるが、クレメンスへの授与式がどのような形で実施されるかを含め、今後の動向が注目されている。