2026年に科学誌『Journal of Phycology』で発表された研究により、光合成を行うアメーバ「パウリネラ」の未知の2種が発見されました。この生物学的に重要な発見の舞台となったのは、最新設備を備えた研究室ではなく、ノースカロライナ州の安価なモーテルの一室でした。
モーテルを実験室に変えた進化生物学の調査
科学者の研究拠点といえば、大学や研究機関の高度な設備を想像しがちです。しかし、ニューヨーク・タイムズの報道によると、今回の発見はノースカロライナ州のモーテルの一室で成し遂げられました。進化生物学者のジュリア・ヴァン・エッテン氏は、家族旅行中に雨で足止めされた際、高速道路脇で採取した水からパウリネラを見つけました。その後、同氏は2025年にかけて同地で継続的にサンプルを採取し、モーテルを臨時の実験室へと改造しました。壁には塩水の入った水差しを並べ、バケツを設置する環境下での研究が、新たな種を特定する成果につながりました。
パウリネラが解き明かす光合成の起源
地球上の植物の葉緑体は、12億年前にシアノバクテリアが真核生物に取り込まれた細胞内共生に起源を持つとされています。しかし、このプロセスは極めて複雑で、いまだ謎が多く残されています。2005年、パウリネラ(ビンカムリ)の遺伝子解析により、その色素体は約1億年前に独立して取り込まれたものであることが判明しました。これは、地球の環境を激変させた生物学的イベントが、植物とは別に2回目として独立に生じていたことを示しています。植物と比較して共生の時期が比較的最近であるパウリネラは、真核生物がどのように光合成を開始したのかを解明する重要な手がかりとなります。
研究の進展を阻む生物学的な特性
パウリネラの研究は、その希少性と育成の難しさから、これまであまり進んでいませんでした。1894年に最初の種が発見されて以来、2025年までに報告されたのは合計4種のみです。パウリネラは水中の微生物と比較して個体数が少なく、サイズも小さいため採取が困難です。さらに、実験室での増殖に4~5日を要するという特性が、速やかな成果を求める博士課程の学生にとって大きな障壁となってきました。そのため、多くの研究者が対象として選ぶことを避けてきた経緯があります。
研究資金の停滞と新たな協力関係
2025年1月、当時ウッズホール海洋研究所の研究員であったヴァン・エッテン氏は、連邦政府による資金提供の一時停止という困難な状況に直面しました。給与や研究資金の不透明感から、科学者同士のグループチャットで今後の戦略が話し合われました。このチャットを通じて、ヴァン・エッテン氏はデューク大学の博士研究員であるアンドリュー・ウィロビー氏と出会います。微生物学が専門ではないものの、ウィロビー氏はヴァン・エッテン氏の調査に同行することを決意しました。2025年春、両氏はモーテルを拠点とした共同調査を実施し、今回の発見に至るデータを蓄積しました。
- パウリネラ(ビンカムリ):殻を持つアメーバの一種で、色素体による光合成を行う。
- 細胞内共生:真核生物がシアノバクテリアを取り込み、遺伝子の交換を経て1つの生物となる過程。
- 研究の意義:約1億年前という比較的最近の共生イベントを観察することで、生物進化の過程を解明できる可能性がある。