エスカレーターの立ち止まり義務化条例が施行されてから、埼玉県で5年が経過した。yomiuri.co.jpの報道によると、昨年度の調査で「立ち止まる」と回答した人は7割台にとどまり、前年度を下回った。一方、3年前に条例を施行した名古屋市では9割を超え、ルールの浸透度に大きな差が生じている。
埼玉県で立ち止まりの伸びが鈍化する背景
エスカレーターでの転倒防止を目的に全国で初めて条例を施行した埼玉県では、徐々に歩く人が減ってきた。しかし、県の昨年度の調査で「駅で立ち止まって乗った」と答えた人は7割台であり、施行以来初めて前年度を下回るなど近年は伸びが鈍っている。利用者がエスカレーターのステップに立つ位置についても違いが出ている。構造計画研究所の試算では、多くの場合で左右両側に立ち止まって乗った方が輸送効率が良いことが分かっている。それにもかかわらず、埼玉では多くの人が左側に寄っている現状がある。これは、県条例が立つ位置について規定していないことも影響しているとみられている。
名古屋市における条例とAIを活用した啓発効果
これに対し、名古屋市では今年の実態調査で、駅などで立ち止まって利用した人が9割を超えた。名古屋市は3年前に同様の条例を施行しており、「左右を問わず立ち止まる」ことを求めており、利用者2人が左右両側に分かれて乗るスタイルが定着しつつある。さらに、昨年12月以降は市営地下鉄の名古屋、金山、伏見の3駅で、AIを用いたセンサーで歩く人に警告音を鳴らすなど啓発を強化した。その結果、施行前の2022年と比べて16ポイント改善している。伏見駅では9月の電車の到着時に、歩く人はほぼおらず、利用者は左右両側それぞれに立っていた。
女子高生が考案したうさぎの絵による実証実験
ルール浸透の遅れを受け、さいたま市浦和区のJR浦和駅では、地元の県立浦和第一女子高校の生徒が改善に向けた取り組みを行っている。地域課題の解決をテーマにした探究学習の一環として、生徒たちはステップの上にうさぎの絵を描く対策を思いついた。校内の廊下で複数の絵を貼る実験を行い、うさぎの絵が最も踏まれる確率が低いことを確認している。「かわいい、守ってあげたい」と感じさせることで利用者の行動を変えられると考え、JR東日本に実証実験を提案した。同社も賛同し、9月に連絡通路のエスカレーターのステップに「ふまないで」の文字と生徒がデザインしたうさぎが左右交互に描かれた。同月下旬には、生徒自身が停止を呼びかける音声を録音し、駅構内で流す取り組みも始めている。
行動変容を定着させるための今後の課題
浦和駅での取り組みにより、利用者が絵を避けるように立ち止まる姿が増えている。同校の3年の生徒は、取り組みが広がればうれしいと話し、別の場所でもうさぎを思い出してほしいと訴えている。仕掛けによる行動変容を研究する大阪大学の松村真宏教授は、記憶にすり込ませればうさぎの絵がなくても片側空けの習慣を変えられると指摘する。その上で、効果を定着させるには長期間にわたって多くの場所で同時に行うことも必要であるとしている。絵を踏んで前に詰めなければ輸送力は改善しないため、今後は歩く人を減らすことから行動を定着させる段階へと進めるかが問われている。
