カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事と議会指導部は、山火事被害者への補償迅速化を柱とする新たな法案「SB 492」で合意に達した。この法案は、電力会社の設備が火災を引き起こした場合の賠償責任に関する規定を見直すもので、被害者支援の強化と電力会社への説明責任を両立させることを目指している。
山火事被害者救済に向けた新法案SB 492の概要
同法案は、ジョシュ・ベッカー上院議員とコッティ・ペトリー=ノリス下院議員によって起草された。主な内容には、山火事による財産損失や苦痛に対する「ファスト・ペイ(迅速支払い)」プログラムの創設が含まれている。このプログラムでは、請求の有効性を60日以内に判断し、その後の30日以内に和解案を提示するという期限が設けられる。一方で、被害者が電力会社を相手取って訴訟を継続する権利は維持されており、証拠収集や火災原因の究明を目的とした法的手続きも引き続き可能となっている。
電力会社の説明責任と規制強化
今回の合意は、ニューサム知事が当初提案していた、電力会社が支払う損害賠償額を制限する案から大幅に軌道修正された形となった。当初の提案には、保険会社による電力会社への賠償請求(代位求償)を制限する内容が含まれていたが、これに対しては山火事の生存者や消費者団体、保険業界から強い反対の声が上がっていた。
最終合意されたSB 492では、被害者による損害賠償請求額の上限設定や、地方自治体・民間企業による賠償請求権の制限は盛り込まれなかった。さらに、電力会社が死亡事故を伴う火災を引き起こした年度において、経営陣に対するボーナス支給を禁止する規定が追加された。
この決定について、消費者の権利保護団体であるコンシューマー・ウォッチドッグは、被害者の基本的な権利を保護し、電力会社に責任を問う重要な一歩であると評価している。また、エブリー・ファイア・サバイバーズ・ネットワークのジョイ・チェン事務局長は、議会が生存者の立場に立ち、電力会社の説明責任を重視した姿勢を歓迎した。
投資ファンドの介入制限と背景
今回の法案では、プライベート・エクイティ(未公開株投資)ファンドなどが山火事の賠償請求権を買い取り、利益を上げる行為を制限する措置も講じられた。これまで、投資家が賠償請求を買い取り、高額な訴訟を通じて利益を得る仕組みが、電力会社の賠償コストを押し上げる一因となっていた。
この問題の背景には、カリフォルニア州の厳しい電力事情がある。州法では、電力会社による過失の有無に関わらず、設備が火災の原因となった場合には電力会社が損害賠償責任を負うことになっている。2018年のキャンプ・ファイアによる賠償負担は、大手電力会社PG&Eの破綻を招いた。また、2025年1月に発生したイートン・ファイアでは、南カリフォルニア・エジソン(SCE)社の送電線が原因となり、19人が死亡する惨事となった。
州のエネルギー政策と今後の課題
ニューサム知事は、今回の合意を「真の進歩」と評価しつつも、電気料金の安定化や、180億ドル規模の山火事基金の長期的維持に向けて、引き続き議論を進める必要性を強調した。
現在、カリフォルニア州の電気料金は全米で2番目に高く、山火事関連のコストが平均的なPG&Eの請求額に月額約41ドル、SCEの顧客には同27ドルを上乗せしている。州当局は、賠償コストの増大が電力会社の信用力を低下させ、結果として借入コストの上昇やさらなる電気料金の値上げにつながることを懸念している。
山火事基金は電力会社の顧客と株主が折半で拠出しているが、専門家からは、さらなる大規模火災が発生すればこの基金が枯渇し、再び電力会社が経営危機に陥るリスクは完全には排除できないとの指摘もある。カリフォルニア州では、過去10年間で最も破壊的な山火事の20件のうち9件が、電力設備や送電線に起因するものとされており、インフラの安全性確保と被害者救済のバランスが引き続き重要な政治課題となっている。
[https://www.kqed.org/news/12097357/newsom-lawmakers-reach-last-minute-deal-on-wildfire-fallout] [https://abc7.com/post/california-lawmakers-side-with-wildfire-victims-reject-bill-to-limit-utility-payouts-for-fires/19764402/] [https://calmatters.org/politics/2026/08/final-legislature-wildfire-deal-newsom/]