米国が今年に入り、メキシコ国籍の強制送出者約2,300人をグアテマラやホンジュラスを経由させる第三国送還を急増させている。トランプ政権の厳しい移民政策の一環であり、メキシコ政府はこれに強く反対し反発している。
グアテマラ経由でのメキシコ人送還が急増した背景
米国政府は、ドナルド・トランプ大統領の掲げる史上最大規模の不法移民強制送還を遂行するため、通常とは異なる迂回ルートを活用している。歴史的にメキシコは自国籍の送還者を直接受け入れてきたが、今年4月以降、米国はメキシコ人をグアテマラやホンジュラスへ強制送還し、そこからバスでメキシコ国内へ移送する手法を組織的に進めている。
グアテマラのベルナルド・アレバロ大統領は、今年に入ってから米国で拘束・送還されたメキシコ人2,284人が「トランジット(通過)ストップオーバー」として同国に到着していることを水曜夜の記者会見で認めた。グアテマラに到着した送還者らは、難民や亡命のステータスを持たず、24時間以内にメキシコ移民当局との調整のもとでメキシコ領土へ戻されている。
メキシコ政府の反対と外交的圧力の構図
メキシコ外務省は木曜日に声明を発表し、この慣行に対する明確な反対を表明した。メキシコ側は、すべてのメキシコ国民には自国に入国する権利があるとしており、米国当局に対して抗議を申し入れている。さらに、関係各国と調整を行いながら市民の安全な帰還を進めている。
人権団体や移民問題の専門家は、こうした第三国への送還が単なる行政手続き以上の政治的意味を持っていると指摘している。人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ファースト」の政策ディレクターであるサヴィ・アーヴェイ氏は、この戦術についてメキシコ政府に対する圧力を強める意図があると分析している。
The deportation tactic seems to be to put pressure on the Mexican government. They really don’t want any Mexicans crossing the border. Savitri Arvey, Human Rights First(日本語訳:この強制送還の戦術は、メキシコ政府に対する圧力をかけるためのもののように思える。彼らはメキシコ人が国境を越えることを本当に望んでいない。)
また、ワシントンに拠点を置く「移民政策研究所」のアンデ。リュ・セリー所長は、米国がこれまで体系的に行ってこなかった中央アメリカ経由でのメキシコ人送還について、それが原国での保護を必要とする人々なのか、あるいは単に威圧目的の懲罰的なものなのかが不明確であると述べている。
ホンジュラスへの送還と現場の実態
グアテマラだけでなく、ホンジュラスでも同様のメキシコ人送還が確認されている。ホンジュラスの公式文書によれば、8月13日と15日の2便で、米国から強制送還された82人のメキシコ人がサン・ペドロ・スーラ市に到着したほか、木曜日にはさらに35人が追加で到着した。
実際にこの迂回送還の対象となったメキシコ人の証言からは、現場の混乱した様子がうかがえる。米国のスペイン語テレビ局テレムンドのインタビューに応じたメキシコ出身の送還者アルトゥロ・トレホ氏は、米国からホンジュラスへ飛行機で移送された際の流れについてこう語った。
何も説明されず、ただ飛行機に乗れと言われただけだったと、トレホ氏は自身のメキシコの故郷から振り返った。
不法移民対策の強化と今後の見通し
トランプ政権は、任期開始当初から移民統制を最優先課題に掲げ、メキシコやグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、コスタリカ、パナマなどの各国と合意を結んできた。これにより、米国から追放された第三国出身者の「橋渡し」や中継地としての運用が進められている。

メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領が明らかにしたデータによると、メキシコ自体も2025年には主にキューバ人やベネズエラ人を中心に約12,000人の国外追放された外国人の受け入れを行ってきた。しかし、自国籍のメキシコ人が他国を経由して送還される今回の動きは、これまでの二国間運用の枠組みを大きく揺るがすものとなっている。
米国の国務省報道官が「不法移民および大量移民を終わらせる決意に揺るぎはない」と強調する一方で、メキシコ政府との間の外交的摩擦や、送還された人々の権利保護を巡る懸念は今後も続いていく見通しだ。