約5,300年前の銅器時代に生きたミイラ「アイスマン(オッツィ)」の最新解析により、生前の腸内細菌叢(マイクロバイオーム)に加え、氷河由来の冷温適応酵母が現在も生存している可能性が明らかになりました。イタリアのEurac Researchに所属する微生物学者のモハメド・S・サルハン(Mohamed S.
古代の腸内細菌叢と現代社会との違い
研究チームは、オッツィの腸管組織や胃の内容物から、生前の腸内細菌叢の遺伝的証拠を検出しました。この微生物コミュニティは2019年の研究で初めて記録されたもので、初期の人類集団に見られる限定的なマイクロバイオームと密接に似ていることが分かっています。
特筆すべきは、これらの細菌の多くが、現代の工業化社会に生きる人々からは滅多に見つからないという点です。また、過去の研究では、胃潰瘍や胃がんに関連する細菌であるヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)の古代株も回収されています。これにより、オッツィの体は、かつての人類がどのような微生物と共に生きていたかを知るための稀有な窓となっています。
氷河由来の冷温適応酵母の発見
今回の解析で最も驚くべき発見は、皮膚サンプル、体内の融解水、および胃の内容物から、極低温環境に適応した酵母が検出されたことです。遺伝子検査の結果、これらの酵母は南極などの極寒の地で見つかる株に関連していることが判明しました。このことから、これらの酵母は氷河に由来し、数千年にわたってオッツィに付着していたと考えられています。

具体的に特定されたのは、Glaciozyma、Mrakia、Phenoliferia、Goffeauzymaの4種の冷温適応酵母です。研究チームは、分解が進んだ「古代のDNA」と、保存状態の良い「現代のDNA」の両方を検出しました。これは、これらの微生物が単なる過去の生物学的遺骸ではなく、摂氏マイナス6度、高湿度という現在の保管条件下でも、休眠状態などで生存し続けている可能性を示唆しています。
保存処理剤「フェノール」への適応
1991年の発見後、オッツィの表面から菌類の増殖を取り除くために化学物質のフェノールが使用されました。しかし、今回の研究で、検出された酵母のうち3種がフェノールを代謝し、それを食物源として利用できる能力を持っていることが判明しました。サルハン氏は、ミイラのマイクロバイオームは、5,000年以上前の微生物と、発見後に導入された現代の微生物が共存している点で非常にユニークであると述べています。

実用的な応用と意外な試み
これらの冷温適応微生物は、他の種では活動が鈍くなるような低温下でも機能するため、低温発酵など、エネルギー消費を抑えた工業プロセスへの応用が期待されています。
オッツィに関する既知のデータ
今回の微生物解析以外にも、オッツィについては多くのことが解明されています。
- 死因と年齢: 死亡時約45〜46歳。背中から矢を受けて殺害された。
- 身体的特徴: 肌に少なくとも61箇所のタトゥーがあり、動物の皮で仕立てた衣服を着用していた。
- 最後の食事: アイベックスの脂肪、野生動物の肉、穀物などが含まれていた。
- 遺伝的背景: 全ゲノム解析の結果、祖先は現代のサルデーニャ島の人々に最も近いことが判明している。