1725681551
2024-09-06 02:30:00
日本マクドナルドホールディングスの日色保CEOは価格戦略について、 値上げをする際は同時に 魅力的な商品と店舗体験の向上が重要になると語った。
撮影:伊藤圭
日本マクドナルドホールディングスは、2024年上半期に連結純利益で過去最高を更新した。
原材料価格の高騰を受けて1月に「ビッグマック」をはじめ約3分の1の商品を値上げしたが、客単価が上昇しただけではなく、客数も3.2%増加したという。マクドナルドは値上げしてもなぜ顧客に愛されるのか。日色保CEOに、同社の戦略について聞いた。
(聞き手・Business Insider Japan共同編集長 高阪のぞみ、文・湯田陽子、撮影・伊藤圭)
値上げと店舗体験向上をセットで
—— 物価上昇の中、マクドナルドの動向は業界内外から注目されてきましたが、今年1月に値上げに踏み切りました。価格戦略についての考えを改めて聞かせてください。
価格については慎重に慎重を期して検討してきました。2022年頃からインフレが急激に進み、為替も円安に振れる中で原材料価格が高騰した。当社は食材・資材の約6割を輸入しており、厳しい状況になりました。
しかも、約7割が店舗フランチャイズオーナーによる経営です。仕入れ価格が上がると彼らの収益に直接影響します。
私たちのビジネスは、マクドナルドとフランチャイズのオーナー、サプライヤーの三者で成り立っている。この関係を「Three-Legged stool(3本脚の椅子)」と呼んでいます。
3本の脚のどれが欠けてもどれが短くても長くても、椅子が安定しない。その椅子に安心してお客さまに座っていただくには、この3本脚が健全でなければいけません。それぞれが健全な経営を続けられるように価格戦略を考える必要があるのです。

撮影:伊藤圭
—— 戦略としてどのような点を重視しているのでしょうか。
価格だけでなく、同時により魅力的な商品を出したり、店舗体験を向上させたりすることです。
お客さまが感じるバリュー(価値)は、総合的な店舗体験を価格で割ったものだと考えています。“分母”である価格を上げるなら“分子”の店舗体験も上げなければバリューが下がってしまう。より魅力的なメニュー、モバイルオーダーによる利便性向上、ドライブスルーの迅速化、デリバリーの充実など、さまざまな側面から店舗体験の価値を上げることを重視しています。
一昔前は「お腹空いたからマックでいいや」という選ばれ方だったと思いますが、今は「マックがいい」と言っていただく人が増えてきた。私たちは「Like」から「Love」への変化を目指していますが、そのためにはお客さまとの関係性を深め、ブランド価値を高めていく必要があります。
デジタル化と人的サービスの融合
—— 具体的にどのような取り組みを行っていますか。
例えばモバイルオーダーの導入です。マクドナルドのレジ前は長蛇の列になることが多く、その列を見て入店しないお客さまもいらっしゃったんです。でも、モバイルオーダーの導入によってレジ前に人があまり滞留しなくなり、お客さまがお店に入りやすくなってきた。
タッチパネルでの注文端末も導入しましたが、使い方が分からないお客さまのためにご案内係を配置しています。
実は店内で食事する人のほうが、モバイルオーダーでテイクアウトする人よりも満足度が高いというデータが出ているんですよ。従業員とのインタラクションがあるからだと思います。
DX化は人との接点を減らす側面もありますが、マクドナルドではデジタルと人のサービスどちらも重視し、両者の融合を目指しています。
—— チャネルの多様化にも力を入れていますね。
もともと独自のデリバリーサービスがあったのですが、2017年にUber Eatsとパートナーシップを結び、2019年のCEO就任後一気にデリバリー対応店舗を拡大しました。2020年からのコロナ禍でそのチャネル拡大が功を奏した。タイミングはたまたまでしたが、いまやデリバリーの売り上げは日本でトップクラスになりました。
—— 日本特有の課題はありますか。
日本では約30年間デフレだったので価格は上がらないものだという意識が強いと思います。価格を変更する際にメディア発表しなければならないのは、実は日本くらい。メディアが過去の最安値と比較して報じたりすることも、デフレマインドから抜け出せない理由の一つではないでしょうか。
しかし、適切な価格設定は必要です。収益が上がればそれを賃上げや従業員教育に投資でき、生産性向上や消費拡大につながる好循環を生み出せるからです。
店舗実習から学んだ真のダイバーシティ

撮影:伊藤圭
—— マクドナルド入社後に4カ月間、店舗実習をされたそうですね。その経験も経営に大きな影響があったのではと思います。
マクドナルドに入社した人は、中途社員でも役員でも全員、店舗実習をします。私自身、外食産業は初めてだったので、「ぜひ現場を知りたい」とサラ・カサノバ前会長に言いました。そして組まれたスケジュールを見たら、4カ月間だった。正直、「そんなに?」と思いました(苦笑)。
1カ月ずつタイプの違う4店舗で、「初心者マーク」をつけて実習しました。レジをスムーズに操作できずにお客さまをお待たせしてしまったことも。ただ、お客さまから「大丈夫?」と声をかけられたり、ご高齢の女性に「頑張ってくださいね」と励まされたりもした。
経験して本当に良かったです。マクドナルドの店舗には、高校生、大学生、主婦、フリーター、シニア、外国人など多様な人材がいます。そうした人たちと日々仕事をするうちに、これこそが本当のダイバーシティだと感じました。
例えば、シニアの方はハンバーガーを素早く作ることは難しいかもしれませんが、ホスピタリティは素晴らしい。発達に特性のある方は、反復して何度も繰り返す作業を全く苦にしない。それぞれが得意なことを活かして働ける環境が整っているんです。
これからのリーダーに求められる能力とは
—— ダイバーシティのリアルを目の当たりにされたわけですね。
ダイバーシティの本質は、単に性別や国籍の多様性だけでなく、経験値やバックグラウンドの多様性も重要。そして、そのような多様な人材をまとめ上げ、チームとしてパフォーマンスを出すことが、これからのマネージャーやリーダーに求められる能力だと感じました。
同質な人材だけで構成されたチームは効率的かもしれませんが、予想してないことに直面した時に対応できない。固いけどもろいんです。
一方、多様なバックグラウンドを持つチームは、まとめ上げるのに苦労はしますが、ビジョンやミッション、パーパスをもとに、求心力を持ってつなぎ、結びつけることで、予想外の出来事に遭遇しても、より柔軟に対応できる強みがあります。
日本のダイバーシティはまだジェンダーが中心ですが、もっと多様なダイバーシティに目を向ける必要がある。しかも、ダイバーシティを推進するだけでは不十分で、インクルージョン、そしてさらに高いエンゲージメントを生み出すことが重要です。DEIの次は「DEI+エンゲージメント」と考えています。
チームのメンバーの中で、エンゲージメントレベルが80%の人と120%の人では、5割も差がある。その差が、提供されるサービスの質にも大きく影響するからです。
人材育成がブランド価値を高める

撮影:伊藤圭
—— アルバイトの方も含めた人材育成にかなりの投資をしているとうかがいました。
サービス産業、特に外食産業は離職率が高い点が課題です。教育してもすぐに辞めては無駄だと、さらに投資しない悪循環に陥っている。辞めてしまうから投資しないのか、投資しないから辞めてしまうのか。難しい問題です。
マクドナルドのクルーは多くが学生のアルバイトです。でも、たとえ卒業や就職で短期間で辞める可能性があっても、教育をしっかりする。教育によって自分の仕事に対する効用感、役に立っているという気持ちがより高まる。すると、より自分の仕事に対してエンゲージメントレベルが上がります。
このような高いエンゲージメントを持った従業員によるサービスは、お客さまにも伝わります。私たちはこれまでの経験から、従業員教育はリターンが非常に高い投資だと考えています。だから力を入れているのです。
これは社員の話ですが、今年4月にはベースアップと定期昇給を合わせて平均4%賃上げをしました。
社内教育機関の「ハンバーガー大学」は、「マクドナルドのピープルビジネス」の象徴でもあります。リーダーシップのあり方も含めて、役職に必要なスキルを身につけられるクラスがあり、店長や店舗のマネージャーになるには、このクラスを受ける必要がある。もちろん、アルバイトの人も受けられます。1971年に日本第1号店がオープンする前からあって、現在は460クラス以上を開講しており、年間約1万3000人が受講しています。
—— 今後の展望についてお聞かせください。
私たちは常に社会の変化に対応し、進化し続けることが重要だと考えています。例えば、お酒を飲まない若い人たちも増えているので、そうした方々に夜利用してもらうなど、新たな顧客層や利用シーンの開拓にも取り組んでいきます。
マクドナルドが単なる食事の場所ではなく、お客さまにとって特別な存在となり、「マクドナルドに行きたい」と思っていただけるように、常にお客さまの声に耳を傾け、ブランド価値を高めていきたいと思います。
#マクドナルドはなぜ値上げしても顧客が増えるのか日本特有の課題と戦略をCEOに聞く #Business #Insider #Japan