テネシー州で死刑執行に失敗し、致死量の薬物を投与されたクリスタ・パイク死刑囚(50)が、意識を回復し会話ができる状態にあると弁護団が6日に発表した。薬物投与後の生存は医学的に極めて異例の事態であり、州知事は年内の死刑執行停止を命じている。
死刑執行失敗から6日、パイク死刑囚が意識を回復
テネシー州ナッシュヴィルのリヴァーベンド最高警備刑務所で先月30日に行われたクリスタ・パイク死刑囚の死刑執行は、2度にわたる薬物注射の失敗により中断された。BBCによると、パイク死刑囚はその後病院へ搬送され、数日間にわたり意識不明の状態が続いていた。6日、弁護団は声明を発表し、同死刑囚が現在は「意識があり、会話できる」状態であると明らかにした。ロイター(Infoseek)の報道でも、パイク死刑囚が意識を回復したことが確認されている。現在も手錠をかけられたまま、集中治療を受けているという。
専門家が指摘する「医学的に前例のない」事態
致死量の薬物を投与されながら生存した事例について、専門家からは異例との声が上がっている。BBCの取材に対し、フォーダム大学ロースクールのデボラ・デノ教授は、過去に執行を生き延びた死刑囚は7人存在するものの、いずれも薬物が静脈に注射されていなかったと指摘した。「何かしらの毒素が実際に注射されて」生き延びたのはパイク死刑囚が初めてであり、「このようなことはこれまで一度もなかった」と述べている。弁護団の助言を行う麻酔科医のジョエル・ジヴォット医師も、致死量の薬物を投与されて回復する可能性は極めて低いと説明した。
執行失敗の背景と弁護団による事前の警告
パイク死刑囚の弁護団は、執行以前から同死刑囚の健康状態について当局に懸念を伝えていた。BBCの報道によると、弁護団はパイク死刑囚が血小板増多症を患っており、静脈が細いことなどを理由に「不必要な」苦痛を受けるリスクがあると警告していた。今回の執行失敗により、同死刑囚は両腕に深刻な損傷を負ったと弁護団は主張している。アメリカの死刑情報センターの記録では、2022年に米国内で行われた死刑執行の3割以上で失敗や重大な問題が発生しており、その多くは静脈へのアクセス確保が困難なことに起因している。
テネシー州当局の対応と今後の不透明な予後
今回の事態を受け、テネシー州のビル・リー知事は年内に予定されていたすべての死刑執行の一時停止を指示した。また、州の刑務所当局の責任者は先週末に辞任の意向を表明している。パイク死刑囚の回復状況について、ジヴォット医師は「彼女の容体について、大きなリスクはもうなくなったとは、決して言えない」と慎重な見方を示した。投与されたペントバルビタールが血流ではなく皮下組織に広がった可能性が指摘されており、神経学的な影響を含め、長期にわたる回復期間が必要になるとみられている。
裁判所での審理と差し迫る対応
パイク死刑囚は1996年、当時19歳だったコリーン・スレマーさんを殺害した罪で死刑判決を受けた。事件は、当時18歳だったパイク死刑囚と恋人のタダリル・シップ受刑者が、職業訓練キャンプで知り合ったスレマーさんを殴打、拷問の末に殺害したとされる。弁護団は7日にナッシュヴィルの裁判所に出廷し、記者会見を行う予定である。当局は現時点で、今回失敗した死刑執行を再開するのか、あるいは何が技術的な問題を引き起こしたのかについて詳細を明らかにしていない。テネシー州では今年、5月にもトニー・カラザース死刑囚の執行が静脈確保の困難を理由に延期されており、州の執行体制が再び問われる事態となっている。