エジプト東部アビドスにある約5000年前の葬祭複合施設で発見された人骨の法医学的調査により、王の死に際して召使いが生け贄として殺害されていたことが判明した。米インディアナ州パデュー大学の博士研究員であるロズリン・A・キャンベル氏らの研究チームが、5日に学術誌フロンティアーズで発表した。
アビドスの遺跡から見つかった頭蓋骨の衝撃
紀元前3000年頃に遡るエジプト東部アビドスの葬祭複合施設から、1920年代に最初の発掘調査で人骨が見つかった。当時のイギリス人考古学者フリンダーズ・ペトリーは、墓の圧倒的な数から人身御供の可能性を指摘していたが、死因を示す決定的な証拠は長年得られなかった。キャンベル氏はケンブリッジ大学の収蔵庫で、ペトリーが記録とともに残した46個の頭蓋骨を調査した。現代の法医学的知見を適用することで、骨に残された致命的な外傷の特定に至ったと、同氏は5日に語っている。
法医学的調査が明かす殺害の手口と武器
調査対象となった46個の頭蓋骨のうち、39%にあたる18個に明らかな外傷が確認された。保存状態の良い頭蓋骨に見られる損傷は一般的に線状骨折であり、平たく幅の広い武器によって引き起こされた可能性が高い。この骨折は急速な意識喪失や内出血、そして死を直接もたらしたとキャンベル氏は説明している。これまでの古代エジプトにおける従者殺害をめぐっては、絞殺や毒殺など様々な説が唱えられてきたが、物理的な外傷の存在が法医学的に証明されたのは今回が初めてとなる。
歴史的背景と権力誇示の構造
多くの古代文化において、支配者の死に際した従者の埋葬は、死後も仕え続けるという信仰に基づいて行われてきた。同時に、それは支配者の強大な権力を誇示する政治的な行為でもあったとキャンベル氏は指摘する。従者の中には永遠の命や名誉を得るために自ら死を選んだ者もいれば、生け贄として選ばれ強制された者もいたとみられる。しかし、同地域で発見されたすべての埋葬が人身御供の犠牲者とは限らず、自然死や窒息死など他の死因が含まれていた可能性も否定されていない。
専門家が示す解釈への慎重な姿勢
英マンチェスター大学でエジプト考古学の講師を務めるキャサリン・スリンガー氏は、今回の研究について、長年の疑問であった従者の殺害方法が法医学的証拠によって初めて裏付けられたと評価している。一方で、英エクセター大学の法医学考古学者カール・ハリソン氏は、今回の発見を興味深いとしながらも、骨に残された傷害のパターンから古代エジプト人の意図を過度に解釈することには慎重を期すべきだと警鐘を鳴らしている。法医学は傷害の事実を示すものの、その背景にある意図の評価には専門的な慎重さが求められるという。

今後の研究と残された謎
今回の研究成果は、初期エジプト王朝における王権のあり方や死生観を解き明かす重要な手がかりを提供するものとなった。しかし、アビドスで発見された多数の埋葬者のうち、外傷が確認されなかった残りの人々がどのように死亡したのか、その全容はいまだに解明されていない。さらなる骨の分析や発掘データの検証が進むことで、古代エジプトの葬送儀礼における生け贄の実態がさらに詳細に明らかになることが期待されている。