イエメンの親イラン武装組織フーシ派が紅海沿岸の要衝を制圧し、商船攻撃能力を強化したことを受け、サウジアラビアの支援を受けるイエメン政権軍が反攻を開始した。この紛争の激化はサウジアラビア国内のインフラや経済活動にも深刻な影響を及ぼし、地域全体の安定を揺るがしている。.
紅海沿岸でフーシ派が支配地を拡大
イエメンのシーア派系武装組織フーシ(正式名アンサール・アッラー)は9月、サウジアラビアが支援するイエメン政府軍に対し、電撃的な攻勢を仕掛けた。紅海に面する歴史的な港湾都市モカや、ズカル島、ペリム島といった要衝を短期間で相次いで制圧した。この進撃により、フーシは紅海南端の重要なチョークポイントであるバブ・エル・マンデブ海峡を通過する船舶輸送に対して、強力な支配力を確保した。Forbes JAPANによれば、フーシはイエメン政府側の内部亀裂や戦闘能力の低さを突く形で支配地を広げ、イランのイスラム革命防衛隊からの戦術支援を受けていたとされる。
政府軍による奪還作戦と「ジャイアンツ連隊」の役割
フーシの支配地拡大を受け、イエメン政府軍はサウジアラビアの航空支援を背景に反攻作戦を開始した。Yahoo!ニュースによると、この地上戦で主導的な役割を果たしているのが、アラブ首長国連邦(UAE)から訓練と装備の支援を受けてきた民兵組織「ジャイアンツ連隊」である。同連隊はフーシとの戦闘経験が豊富であり、モカなどの要衝奪還において前線に立った。ただし、UAEがイエメン南部で独自の影響力を強める動きには、サウジアラビアやイエメン政府が警戒感を抱いており、対フーシという共通の目的の裏側では、複雑な勢力争いが繰り広げられている。
経済多角化構想「ビジョン2030」への打撃
サウジアラビアのムハンマド皇太子が推し進める経済改革構想「ビジョン2030」も、今回の紛争激化によって重大な試練に直面している。TBS NEWS DIGによると、リヤドで予定されていた世界石油会議(WPC)などの国際的な会合では、大手企業の幹部が参加を取りやめる動きが出ている。サウジアラビア政府は投資環境の安全性をアピールしているものの、相次ぐ空港閉鎖や死傷者の発生は、観光や金融の拠点化を目指すリヤドの計画に影を落としている。防衛費の増大も重なり、今年の財政赤字見通しは引き上げられ、経済成長への影響も懸念される。

国際的な航空・物流への警戒感
フーシによる一連の商船攻撃と航空インフラへの軍事行動は、グローバルな物流網に緊張をもたらしている。欧州航空安全庁(EASA)はサウジアラビア領空に関する警告の対象範囲を拡大し、米連邦航空局(FAA)も米国の航空会社に対して警戒を促した。エールフランスKLMやルフトハンザ・グループなど、複数の航空会社がリヤド発着便の運航停止を余儀なくされている。紅海という世界的な海上輸送路の要所において、フーシが長距離対艦ミサイルやドローンによる攻撃能力を維持していることは、今後も世界のエネルギー価格や物流コストを不安定化させる大きな要因となる。

混迷する紛争の収束は見通せず
イエメンでの戦闘は、米国・イスラエルとイランの対立という構図と密接に結びついており、単なる内戦の枠を超えて地域情勢を左右する事態となっている。サウジアラビアはフーシの「排除」を目指して介入を強めているが、米国は軍事顧問の派遣や諜報協力にとどめており、本格的な地上介入には慎重な姿勢を崩していない。フーシ派との衝突が激化する中で、サウジアラビアが安全保障上の脅威を抑え込みつつ、掲げた経済改革をどのように維持していくのか。その出口戦略は依然として不透明なままであり、紛争の終結に向けた具体的な道筋は見えていない。
