欧州連合(EU)のトップらは、ジェノサイドなどの戦争犯罪で終身刑を言い渡されていた元ボスニア・セルビア軍司令官のラトコ・ムラディッチ(Ratko Mladić)氏に対し、セルビアが軍の礼装を伴う葬儀を行ったことに強い衝撃を表明した。EU側は、この対応がセルビアのEU加盟に向けた道のりを損なう可能性があると警告している。
「衝撃的」とするEU首脳陣の反応
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、9月7日にベオグラードで執り行われたムラディッチ氏の葬儀について、多くの人々が集まった様子が映る画像はshocking
(衝撃的)であるとXに投稿した。フォン・デア・ライエン氏は、一部のセルビア政府高官が参列し、公的な支援があったことはdeeply regrettable
(深く遺憾)であるとし、これは欧州の近現代史における暗い章に向き合えていないことを示しており、セルビアのEU加盟を支える価値観に矛盾すると述べた。欧州理事会のアントニオ・コスタ議長もこの見解に同調している。
また、EUの拡大担当委員であるマルタ・コス氏は、ムラディッチ氏の死を巡る「美化」がEUの価値観と相容れないとして、予定していたセルビア訪問をキャンセルした。コス氏は、ムラディッチ氏がジェノサイド、人道に対する罪、および戦争犯罪で有罪判決を受けた人物であると指摘し、遺骨がベオグラードに帰還したことは、欧州の最も暗い歴史を思い起こさせると述べた。
ムラディッチ氏の罪状と葬儀の様子
ムラディッチ氏は、1992年から1995年にかけてのボスニア紛争における戦争犯罪で2017年に終身刑を言い渡されていた。具体的な罪状には、1995年のスレブレニツァにおける8,000人以上のムスリム殺害の主導、ボスニアの首都サラエボに対する数年間にわたる包囲、および非セルビア人の民間人や敵軍兵士を拘束するための強制収容所の設置などが含まれる。
葬儀は2026年9月7日にベオグラードのトプチデル墓地で執り行われた。ムラディッチ氏の棺は国旗に包まれ、セルビア軍の兵士が運搬し、葬儀では軍による3回の礼砲が放たれた。参列者には以下の人物が含まれていた。
- ネナド・ヴイッチ(Nenad Vujic)セルビア司法相(遺骨を運ぶ飛行機にも同乗)
- ダニロ・ヴチッチ(Danilo Vucic)セルビア大統領の息子
- ミロラド・ドディク(Milorad Dodik)ボスニア・セルビア共和国のナショナリスト指導者
- アレクサンダー・ボツァン=ハルチェンコ(Alexander Botsan-Kharchenko)駐セルビア・ロシア大使
セルビア政府の主張と政治的対立
セルビアのアレクサンダー・ヴチッチ大統領は、葬儀への出席はしなかったものの、この出来事を「感情の噴出」と表現した。また、コス委員の批判に対し、誰が何を美化したのか具体的に示されていないとし、コス氏の説明をvery short but stupid
(非常に短く、愚かだ)と述べた。ヴチッチ大統領は、葬儀の手配は遺族によって行われたとしており、司法相のヴイッチ氏は、当局は葬儀が「威厳ある」形で行われるよう秩序維持を支援したのみであると説明している。

一方で、欧州評議会のマイケル・オフラハティ人権委員は、有罪判決を受けた戦争犯罪人の美化を阻止するようセルビア当局に促した。オフラハティ氏は、ボスニアではこうした美化は違法であり、欧州人権条約の下でも保護される表現ではないと指摘し、ムラディッチ氏の公的な美化を強く拒絶した。
EU加盟への影響
EUは例年、10月後半から11月にかけて、セルビアを含む候補国の加盟に向けた進捗と欠陥をまとめた年次拡大報告書を発表する。フォン・デア・ライエン委員長は報告書公開前に西バルカン地域を視察する予定だが、現時点で具体的な日程や議題は公開されていない。フォン・デア・ライエン氏の広報担当者は、今回の件がセルビアのEU加盟にどのような影響を与えるかという問いに対し、we are looking into it
(検討中である)とのみ回答した。
欧州議会のスロベニア出身の緑の党議員、ウラジミル・プレビリッチ(Vladimir Prebilic)氏は、セルビアのSNS党が有罪の戦争犯罪人を公然と称賛していると批判し、欧州人民党(EPP)がヴチッチ大統領を保護していると主張している。