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2024-08-21 08:05:00
世界全体の旅行予約 119億ドル以上
オンライン予約市場 5億3200万ドル
AB&Bでの旅行市場シェア 1060万ドル
「旅行予約(世界全体)」の市場規模(119億ドル以上)は、おそらく開示情報でしょう。旅行業界のようにすでに確立している業界ならば、調べれば正確な数字が分かるはずです。この数値は、発展途上国が今後ますます成長していくにつれて中間層が増え、さらに大きくなる可能性がある数少ない市場です。
「オンラインでの予約」の市場も同様にして、事実を記載することができますね。エアビーの計画書によれば、オンライン予約市場は世界全体の旅行予約市場の5%以下。しかし今後、インターネットがますます浸透しネット予約や電子決済などが普及してくれば、この割合は自ずと増えるはずです。
最後の「AB&Bでの旅行」については、起案者が狙う市場シェアを反映させた数字です。エアビーは「1060万ドル」と見積もっています。これはオンライン市場の2%に相当する数字ですね(5億3200万ドル×2%=1060万ドル)。
こうした試算にはよくフェルミ推定が活用されます。すでに確立している市場でもないかぎり確かな数字を把握することは難しいですが、フェルミ推定は桁がずれない程度の精度はあるはずです。
エアビーが導き出した「1060万ドル」は、オンライン市場の2%と見積もっていることから、あまり無理な数字ではないと想定できます。少なくとも数十億円規模の可能性があることは分かりますね。
なお、ここで提示する市場規模に求められる正確性は、目的によって異なります。例えばエアビーの場合は「投資をするかどうか」に関わる判断ですね。プレゼンを聞いた承認者が「投資をする」と判断した場合、その後の第2フェーズで株価の算定や投資額の判断などが行われます。ですから、事業計画書の市場規模には多少のブレがあったとしても、承認者はリスクありと判断すれば第2フェーズの判断でリスクをヘッジすることができます。
一方、事業計画書の目的が売上を確定するようなものであれば、市場規模の試算にはより高い精度が求められます。
さて、市場規模にどれだけ蓋然性があるかを知るうえでは、想定される競合サービスのユーザー数なども重要な情報になります。
例えばエアビーは、次のような競合サイトを取り上げて説明しています。
競合サイトは2つあり、
1つは63万ユーザー
もう1つは1万7000ユーザー
つまり、まったくの新規市場ではなく、立ち上がりつつある市場だということがここから読み取れます。
承認する人、あるいは投資する人がこのサービスに懐疑的だったとしても、既に市場があるというのは力強い説明になります。
(B)顧客価値:価値を提供できるのか
起案者が温めている夢はイケていて、それを求める顧客も十分にいそうだと分かっても、本当にその期待通りにサービス・商品を提供できなければ意味がありません。
そこでこのパートでは、承認者に対して「自分たちはそれを確かに実現することができる」ということを伝える必要があります。
また、想定される競合サービスに対して、自分たちにはどんな差別化ポイントがあるのかも、このパートの中であわせて伝えるとよいでしょう。
エアビーの例を見てみましょう。彼らはどうやって、自分たちこそはこの夢を実現できると示したのでしょうか?
まず、プロダクトのUIがシンプルですね。「都市名で検索 → 検索結果 → カンタン予約!」と、誰でも直感的に使いこなせそうなUIが想定されているので、これならばインターネットを使い慣れた若者だけでなく、もっと幅広い年齢層にも対象を広げられそうな期待が持てます。
続いて、競合相手についても見ておきましょう。エアビーは自分たちの競争環境を次のように見ています。
競合は、前述した2つのサービス(Couchsurfing.comとCraigslist.com)はあるものの、これらはいずれも主にオフラインでのサービスです。
また、オンラインかつ低価格のセグメントにはHostels.comが存在していますが、これはあくまでホステルに宿泊することにフォーカスしたサービスであるため、宿泊者同士の交流はできても「地元の人との文化の共有」はできません。
オンラインサービスにするだけでも価値提供できる可能性があるうえに、文化の共有をコンセプトにしているプレイヤーはいない。つまり、旅行者に価値提供できる唯一の存在になれる可能性があるということが分かります。
(C)対価:価格を支払ってくれるのか
次に、自分たちがイメージしている価格を顧客が本当に払ってくれそうかを検証します。
エアビーの場合、このパートに関連する事柄は、先述したプレゼン資料の中にごくシンプルに書かれています。
「取引ごとに10%の手数料をいただきます」とあります。
1泊あたり手数料10%で20ドル。ということは、エアビーは1泊あたりの宿泊料を200ドルと見積もっていることがここから読み取れます。
承認者は1次スクリーニングの際、ユーザーの視点に立ってこの企画に違和感がないかをチェックします。
例えばエアビーのケースなら、ホテルの料金は都市部か地方か、またランクによってもかなり違うことは少し調べればすぐに分かります。最高級ホテルはスタンダードルームが1泊500ドル以上するところもありますし、格安ホテルなら30ドル台で泊まれるところもあります。
旅行者が一番よく利用する“中の上”のホテルなら、都市部やリゾート地で130~200ドル、地方都市なら100ドル強。ホテル代金が驚くほど安いラスベガスなら70~90ドル程度です。
B&B(Bed&Breakfast:オーナーが自宅の数室をゲストに提供し、手づくりの朝食を出す民宿スタイルの宿泊施設)だと料金は高級ホテル並みで、1泊200ドル以上です。
これらを見るかぎり、エアビーが想定している1泊あたり200ドルという数値は、アメリカであればごく適切な数字だと判断できます。
(D)オペレーション:本当に実行に移せる実力がある体制か
論点の第4の項目は「オペレーション」。つまり、ここまでで詳しく述べられてきた規模感、収益イメージの事業を、本当に実行に移せるだけの力があるのか、ということを伝えるためのパートです。
エアビーの例では、「Team」と題した創業者3人のメンバー紹介を入れています。
ベンチャーキャピタル(VC)が出資をするかどうかを決める際、最も重視するのは「誰がやるのか」です。
事業のアイデアがどんなに素晴らしいものでも、どんなに収益見込みがあるものでも、それを実行に移す人物が役者不足というのでは絶対にうまくいかないからです。
このエアビーのチーム構成について、本稿で引用しているBusiness Insider Japanの記事にはこんなコメントが紹介されています。
「Yコンビネータを通じてエアビーに初めて投資したポール・グレアムは2009年、投資家仲間のフレッド・ウィルソンにこんなメールを書き送っている。いわく、『エアビーはイーベイと同様に化けると思う。創業者の顔ぶれもこのビジネスにおあつらえ向きだ』」
Yコンビネータの共同創業者であるポール・グレアムをしてこう言わしめていうことからも分かるとおり、このエアビーの事業をうまく軌道に乗せるうえで、3人の創業メンバーは適任です。
デザインの素養がありUIにも精通しているジョー・ゲビア、同じくデザインに詳しくその道でコンサルタント業もやっているブライアン・チェスキー、テクノロジーに明るくアプリの開発経験もあるネイサン・ブレチャージク。
この3人をもってすれば、事業計画書に書かれたプランを確かに実行に移せそうだ——そう期待を抱かせるだけのチーム構成だと思いませんか?
残論点:競争優位性
以上が論点設定で最も重要となる4つの項目ですが、エアビーのプレゼン資料にはこれに加えて、競争優位性についても触れられています。
オフラインの競合が今後オンラインに進出してくることは容易に想像つきますね。つまり、(未来の潜在)競合がいるということです。
「その競合相手よりも早く市場に一番乗りして、競合が追いつけないようにすることが、大きな収益を得る鍵だ」——エアビーはこの計画書でそうアピールしているわけです。「だから、アクセルを踏むための資金を投入してほしい」と。
その資金を使って、一気に市場に打って出る。そうすることで、
- 市場に一番乗りし(だから資金を調達したい)
- ホストにとって魅力ある存在となれば(それには資金が必要)
- 物件が一度に表示されて(だから便利)
- 使いやすく(まさに便利)
- 注目度の高い(資金をこれに使う)
- デザイン・ブランド力を実現できる(資金さえあれば実現できる)
と畳みかけているわけです。
どうでしょうか? 承認者にとって必要な情報が過不足なく、しかもわずか10ページあまりの資料として簡潔にまとめられています。新規事業の事業計画書のお手本と言ってもよい内容です。
あなたが投資家や決裁者だったら、このエアビーの事業計画書を見て、間違いなく承認したくなりませんか?
事業計画書を起点にグッドサイクルをつくる
前回お話ししたように、事業計画書に関係する3者のステークホルダーには次のような関係性があります。
起案者のプレゼンを聞く承認者は、心の中で「この事業計画書には、自分たちにとって都合のいいことしか書いていないのでは?」と懐疑的になることも少なくありません。
起案者が説明する事業目的に夢がなければ、承認者も執行者も応援しようという気にならないのは当然ですが、しかしだからといって、まったく実現性がない夢物語を滔々と語られても、それはそれで意味がありません。
また、事業計画に難点や不明点があるのに、それを隠してさも完璧だと言わんばかりの事業計画を立ててくる人がいます。いくら計画上の見栄えをよくしてもその計画が実現できなければ意味がないのに、承認者からのOKをもらうことにばかり意識が向いてしまっているのは困ったものです。
ただし、承認者の立場からすると、この手の起案者なら「まだマシ」とも言えます。承認者がその業界に精通していれば、適切な質問をし、対話の中でその難点や不明点を正していけば軌道修正できるからです。
それよりもたちが悪いのは、起案者が、難点や不明点があることに気づけていないケースです。この場合、起案者自身にすら「何が分からないかが分かっていない」のですから、承認者が質問をして軌道修正することもできません。
解決したい課題が見えていない人、つまり論点設定ができない起案者には、私に限らず、どのステークホルダーも決してOKは出しません。
「大人を舐めてはいけない」
私がリクルートで新規事業を担当していた時にこんなことがありました。
新しくエリアの責任者や店長になった人たちには、事業計画書を作成してもらいます。そして私にプレゼンテーションをして、承認を得ます。
その事業計画書の中には、計画数値をシミュレーションするためのスプレッドシートも含まれていました。シート上の数字を少し変えるだけで、素晴らしく収益性の高い事業計画ができあがるのです(あくまでもスプレッドシート上は、です)。
事業当初からロケットスタートで積み上がる売上、驚くほど高い利益率……。私にプレゼンをする起案者の中には、そうした現実離れした計画を持ってくる者もいました。高収益の事業計画を立てれば、簡単に私からの承認が得られると思っていたのでしょう。当時の彼らにとっては、事業を成功させることではなく、私の承認をとりつけることがゴールになっていたのです。
こうした非現実的な計画を聞かされるたび、私は彼らによく言っていました。「大人を舐めてはいけないよ」と。承認者は、スプレッドシート上にいかに見栄えのよい数字が並んでいるかなど気にしていません。ちょっと操作するだけでいかようにでも変わってしまう変数など、事業計画の本質ではないからです。
そんな些末なことより承認者が知りたいのは、こういうことです。
最終的に収益を大きくするために、今まだ我々が分かってないどのような仮説を起案者は立てているのか。何にチャレンジしようとしているのか。
何かにチャレンジするには、当然お金が必要になります。チャレンジがうまくいくかどうかも、当然のことながら分かりません。しかしだからこそ、この事業計画においてまだ検討が甘い、不確実なポイントを知りたいのです。
承認者は、起案者に厳しい質問をして夢を挫いてやろうとなど思っていません。起案者の夢のような事業計画を一緒に実現するために、知恵、汗、そしてお金を使いたいのです。
前回も示した、MITのダニエル・キム教授の「関係の質」をもう一度見つめ直してみてください。
対話とお互いの尊重によって「関係の質」を高めることを起点にして好循環が生まれ、成果へと結びつく。「彼は、彼女は、期待していたとおりの成果を出してくれた」という揺るぎない事実が、ステークホルダー間の信頼関係をより強固なものにしてくれるのです。
あなたもぜひ、次に事業計画書を作成する際、本稿でお話ししたポイントを念頭に取り組んでみてください。
この一連のプロセスをうまく成し遂げたとき、ビジネスパーソンとしてのあなたの実力は間違いなく、一回りも二回りも大きくなっているはずです。
※本記事は2021年8月6日公開の記事の再掲です。
中尾隆一郎:中尾マネジメント研究所代表取締役社長。1989年大阪大学大学院工学研究科修了。リクルート入社。リクルート住まいカンパニー執行役員(事業開発担当)、リクルートテクノロジーズ社長、リクルートワークス研究所副所長などを経て、2019年より現職。株式会社「旅工房」社外取締役、株式会社「LIFULL」社外取締役、「LiNKX」株式会社非常勤監査役、株式会社博報堂DYホールディングス フェローも兼任。新著に『自分で考えて動く社員が育つOJTマネジメント』がある。
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