ダニー・ボイル監督による新作映画『Ink』が、メディア王ルパート・マードックの台頭とタブロイド帝国の構築を描く歴史ドラマとして公開される。本作は、マードックがイギリスの新聞業界に参入し、タブロイド紙『ザ・サン(The Sun)』を大衆的な権力へと変貌させた過程を追う物語である。映画は9月2日のヴェネツィア国際映画祭でオープニング作品として世界プレミア上映され、金獅子賞を競う予定だ。その後、トロント国際映画祭でもカナダプレミアが上映される。
1969年の出会いと『ザ・サン』の変貌
物語の中心となるのは、1969年の月面着陸と同じ年に起きた、マードックと編集者ラリー・ラムの強烈な出会いである。ダニー・ボイル監督はVanity Fairに対し、この二人の出会いが世界に与えた影響は、人類が月に降り立ったことよりも大きかったと信じていると語っている。
劇中では、ガイ・ピアースが30代の野心的なマードックを演じる。当時、イギリスの作家や編集者から「アンティポデアン(対蹠地の人)」と呼ばれ、かつての流刑地であるオーストラリア出身であることを強調されて蔑まれていたマードックは、低迷していた『ザ・サン』を買収し、北部イングランド出身の野心的な若手編集者であるラリー・ラムを起用した。

ジャック・オコネルが演じるラムは、マードックの暗い世界観を「目をそらせないメディア」へと変換させた人物として描かれる。ラムは、読者の不満やリビドーを刺激するため、物語を扇情的、性的、あるいは露骨に党派的な形で構成する手法を導入した。また、「ページ3」での裸写真の掲載といった手法を先駆的に取り入れ、ニュースをパルプ・エンターテインメントへと再定義した。
製作背景とキャスティング
本作は、ジェームズ・グラハムによるトニー賞ノミネート舞台『Ink』を映画化したものである。グラハムは舞台版の作者であるとともに、映画版の脚本も担当した。ボイル監督は2017年に同舞台を観劇した際、この物語が映画に非常に適していると確信したという。
キャストには、マードック役のガイ・ピアースとラム役のジャック・オコネルに加え、クレア・フォイが『ザ・サン』の女性記者ジュールズ役で出演する。ボイル監督は、ラムというキャラクターが持つ「北部出身の外様」としての疎外感やアンダードッグ(弱者)としての感覚に共感しており、オコネルがラムの攻撃的な手法の中でも観客が共感できるポイントを見出せると評価している。
公開スケジュールと配信形態
映画『Ink』は、一部の劇場で2026年12月11日に公開され、その後、2027年1月8日にNetflixで配信される。米国およびラテンアメリカでの配信がこの日に予定されており、劇場公開から約4週間の独占期間が設けられている。

また、Studiocanalが全額出資および世界販売を担当し、各国で順次公開される。主な国際公開日は以下の通りである。
| 地域 | 公開日 |
|---|---|
| フランス、ベルギー | 1月6日 |
| オランダ、オーストラリア、ニュージーランド | 1月7日 |
| イギリス、ポーランド | 1月8日 |
| イタリア | 2月18日 |
| ドイツ | 2月25日 |
政治的背景と業界の動向
政治的な対立が激化する中、本作は政治を物語の中心に据えている。Varietyによると、過去2年間、メディア複合企業が政府の反撃を恐れて物議を醸す問題を避けてきたが、Netflixが右派のエコシステムに関わる物語を配信することに同意したことは、顕著な方向転換を示しているとされる。
本作の製作陣には、プロデューサーとしてトレシー・シーワード、テッサ・ロス、マイケル・エレンバーグ、そしてダニー・ボイル自身が名を連ねている。上映時間は116分である。