健康

夜勤労働のhidden cost:72時間の脳回復

7月 19, 2026 / nipponese
Muse by InteraXon, Inc.が特定した72時間の脳内回復プロセス

2026年1月以降の研究により、一度の睡眠不足から脳が完全に回復するには最大72時間を要することが明らかになりました。専門家は、単なる睡眠時間の延長ではなく、脳が神経経路を再構築する過程で睡眠構造が変化すると指摘しています。一方で、夜勤労働は心疾患や消化器疾患、さらには認知症リスクを高める深刻な健康リスクとして浮上しています。

Muse by InteraXon, Inc.が特定した72時間の脳内回復プロセス

睡眠不足からの回復:72時間の脳内メカニズム

「たった一度のひどい夜」を過ごした翌日に長時間眠れば解決する――。多くの人が信じているこの通説に対し、脳健康プラットフォーム「Muse by InteraXon, Inc.」による新しい研究は、脳が5時間未満の睡眠しか得られなかった場合、再構築に72時間を要すると報告しています(2026年5月17日発表)。

Muse by InteraXon, Inc.が特定した72時間の脳内回復プロセス
Photo: Benefitscanada

この回復プロセスにおいて、脳は単に睡眠時間を延ばすのではなく、睡眠の質的な構造を変化させることで対処します。深い睡眠(徐波睡眠)の割合は回復初日に約8%増加し、2日目には5.3%、3日目にも4.6%の増加が見られました。一方で、この3日間の総睡眠時間の変動はわずか0.2%にとどまっており、脳が深い睡眠を優先的に確保しようとする「生理学的な優先順位」が浮き彫りになっています。

ジェシカ・ビシエキエルスキ准教授による夜勤と消化器疾患の相関調査

夜勤労働が抱える「生物学的な代償」

労働環境が個人の健康に与える影響も深刻です。メルボルン大学のジェシカ・ビシエキエルスキ准教授が2026年1月7日に発表した研究によると、英国とオーストラリアを対象とした大規模な調査で、夜勤労働者は過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)を一般人口の3〜5倍の割合で経験していることが判明しました。これは、消化器系の運動やホルモン分泌といった生体リズムが、夜間の労働や食事によって乱されるためです。

ジェシカ・ビシエキエルスキ准教授による夜勤と消化器疾患の相関調査
Photo: Businessinsider

さらに、カロリンスカ研究所による41年間にわたる13,000人以上のシフト労働者を追跡した研究では、中年期のシフトワークが認知症リスクを36%高めるという結果が出ています。研究者らは、睡眠不足がアルツハイマー型認知症の原因となるアミロイドやタウタンパク質の蓄積を助長する可能性を指摘しています。

Sun Lifeの調査が浮き彫りにしたカナダ人の睡眠不足の実態

現代社会における「睡眠の危機」と感情的負担

睡眠不足は、労働環境や社会的役割とも深く結びついています。Sun LifeがIpsos Canadaと共同で行った研究では、カナダ人の43%が推奨される7〜9時間を下回る睡眠しかとれていないことが明らかになりました。特に女性、若年層、慢性疾患を持つ層でその傾向が顕著です。

現代社会における「睡眠の危機」と感情的負担
Photo: Indiatimes

この問題は、家庭内でのケアギビングや「感情労働」とも密接に関係しています。俳優のソーハ・アリー・カーンとカルキ・ケクラン、産婦人科医のヴィニー・カントルー博士が参加したポッドキャストでの対話では、現代女性が直面する「生産性を高めるために睡眠を犠牲にする」という風潮や、母親としての精神的重圧が睡眠障害を招く要因として挙げられました。また、ロンドンを拠点とする人事業務エグゼクティブのエイミー・ヤング(39歳)の例に見られるように、パンデミック以降、職場での「非公式なセラピスト」としての役割を担わされることが、燃え尽き症候群(バーンアウト)を誘発し、睡眠の質を低下させている現実も報告されています。

血管系疾患のリスクと睡眠の関係性に関する専門家の見解

専門家は、「睡眠は重要だが、血圧、糖尿病、喫煙といった血管系のリスクも同様に重要である」と強調し、睡眠と慢性疾患の関係は双方向的であると警告しています。