韓国で72年間続いた検察中心の刑事司法制度が2日、捜査と起訴を分離する体制へ移行した。検察庁が廃止され、重大犯罪捜査庁と公訴庁が発足したほか、警察の捜査権限が大幅に拡大する一方、政権による司法への介入や犯罪対応能力の低下を懸念する声が出ている。
検察庁の廃止と捜査・起訴分離の断行
韓国で政界の不正を追及してきた検察庁が2日、廃止され、捜査権を持つ重大犯罪捜査庁と起訴を担う公訴庁に分割された。読売新聞オンラインなどの報道によると、革新系の李在明(イ・ジェミョン)政権と与党「共に民主党」は、過去の保守系政権下で検察が「独裁の道具」として恣意的な捜査を繰り返したと主張してきた。左派の盧武鉉(ノムヒョン)元大統領が検察の捜査を受ける中で自殺した経緯から、左派勢力の間では検察庁廃止が悲願となっていた。李大統領は1日の会議で、「検察が捜査と起訴を独占する誤った時代が幕を閉じる」と意義を強調した。2日に行われた公訴庁の開庁式では、李定炫次長検事が「公訴庁の存在理由を国民に証明しなければならない」と強調し、重大犯罪捜査庁の田宗旻次長も「新たな刑事司法制度が次の100年を支えるよう根を張っていく」とあいさつしたが、双方とも庁長の選任手続きが遅れており、トップ不在での船出となった。
警察への権限委譲と組織再編の実態
AFPBB Newsの報道によると、今回の制度移行により、検察官による直接捜査が廃止され、重大犯罪捜査庁が担当する重大犯罪を除き、告訴・告発事件など一般犯罪の大半を警察が捜査することになる。警察は制度施行を前に、機動隊など他部門の人員を減らして捜査部門を増強し、追加人員も大幅に投入する方針を進めてきた。警察署の統合捜査チームや女性・青少年捜査部門などに人員を投入し、2026年下半期には捜査人員約2100人を追加配置しているほか、ユン・ホジュン行政安全相は他の業務を調整して約4000人を捜査に追加投入する予定だと明らかにしている。一方、警察は検察から引き継ぐ事件数を正確には把握できていない。10月2日以降も検察が最長90日間、既存事件の捜査を続けられるためであり、7月時点で検察が処理できていない事件は16万5000件に上る。警察はまず、検察が逮捕状を取得して指名手配している約2100件のうち、9月21日時点で約1570件の逮捕主体の切り替えを終えている。

補完捜査権の廃止と治安上の懸念
組織改編に伴い、これまで検察に認められていた「補完捜査権」が廃止され、警察などに補完捜査を要求する権限のみとなったと読売新聞オンラインは伝えている。検察の補完捜査権がなくなったことへの懸念は大きく、5月に女子高校生が男に殺害された事件で検察官の補完捜査により容疑者の父親である警察官らが証拠を隠匿した疑惑が明るみに出るなど、警察の不祥事が相次いでいることが背景にある。韓国ギャラップの8月の世論調査では、検察の補完捜査権廃止について「良くない」との回答が50%に上り、「良い」の27%を大きく上回った。主要紙の朝鮮日報は2日、「李政権発足から1年で刑事司法制度が急ぎ足で変更された。犯罪対応能力が低下する」と批判している。一方、ホン・ソッキ国家捜査本部長は、今回の制度改正を「巨大警察」の誕生とみる見方に反論し、検察の指揮を受けずに捜査する制度は2021年に始まっており、重大犯罪捜査庁の担当事件が増えるため警察だけが捜査する範囲はむしろ縮小すると説明している。
最高裁判事人事を巡る大統領府と長官の対立
李政権が進める「司法改革」を巡っては、最高裁の判事人事でも大統領府と最高裁長官が対立し、司法の独立を脅かすとの批判が出ている。最高裁判事は長官が候補者を推薦し、国会の同意を経て大統領が任命する仕組みだが、大統領府は8月28日、曺喜大(チョ・ヒデ)長官が推薦した人事案を国会に提出しないとし、候補を選びなおすよう要請した。これに対し、曺氏は9月22日、「具体的な理由と憲法的根拠が記されていない」と拒否し、応酬が続いている。曺氏は、国会で多数派の与党主導で成立した司法改革関連法に反対してきた経緯がある。与党は、保守系の前政権で任命された曺氏が野党と協力しているなどと激しく攻撃した。複数の韓国メディアによると、大統領府は特定の女性判事を候補者として望んでいるが、夫が憲法裁判所の判事であるため、妻の判決の合憲性を夫が審理する利益相反が想定されるという。

司法への影響と長期化する空白事態
李政権が進める司法改革により、最高裁判事は現在の14人から段階的に増員され26人になる見通しで、そのうち李氏が任期中に任命するのは8割超の22人に達する。そのため、司法への李氏の影響力が強まると懸念されている。今回の対立はその第1陣の人事であり、文化日報は「大統領の『推薦拒否権』を認める先例を残せば、司法の独立が破綻する」と指摘している。李氏は大統領就任前に起訴された5件の刑事裁判を抱え、退任後に審理の再開が見込まれることから、人事を通じた司法への圧力との見方も強い。最大野党「国民の力」は、最高裁判事を大統領府の意向に沿うよう選別する「司法掌握」だと批判している。大統領府と曺氏が双方譲歩せず、判事の空席は200日を超えており、対立は曺氏の任期が終わる来年6月まで長期化するとみられている。