出版取次大手の日販グループホールディングス(HD)の子会社が、米国のAI開発企業アンソロピック社に日本の書籍を無断で販売していたことがわかった。業界団体の日本書籍出版協会による問い合わせに対し、日販側が販売の事実を認めたと、読売新聞や朝日新聞などが報じた。
日販グループ子会社が米アンソロピック社へ書籍を販売
出版取次大手の日販グループホールディングスの子会社である日販アイ・ピー・エスが、米国のAI開発企業アンソロピック社に対して日本の書籍を販売していたことが明らかになった。読売新聞や朝日新聞などの報道によると、出版社約380社が加盟する業界団体の日本書籍出版協会(書協)が日販側へ事実確認を行い、日販側が販売した事実を認める回答をしたという。
アンソロピック社を巡っては、米国の作家らが2024年8月に、書籍のデジタル化や海賊版サイトからのデータ入手によって著作権を侵害されたとして、米カリフォルニア州北部地区連邦地裁に提訴した経緯がある。裁判資料で開示された保管倉庫の様子や、欧米やアジアの流通業者から大量の書籍を買い集めていた記録の中に、日販とみられる「Nippan Japan」の社名が含まれていたことが発端となった。

書協の問い合わせに対して日販側が回答した詳細
朝日新聞の報道によると、日販は2024年11月にアンソロピック社と取引契約を締結し、同年12月から2025年12月にかけて書協所属出版社の発行物を販売したと説明している。日販側は、契約締結前にアンソロピック社へ利用目的を確認していたものの、AI学習を目的とした書籍購入であるという認識には至らなかったと弁明した。
また、どの出版社のどのような書籍を販売したかという具体的な明細については、一括して明らかにせず、個別に出版社からの問い合わせに対応する方針を示している。これに対し、日販の対応を巡る出版関係者からの批判の声は根強く、ある出版社の幹部は「日本の出版文化を守るべき立場にある日販が、出版文化を損ねるようなことをするのは許せない」と読売新聞の取材に対して語っている。
日本の著作権法におけるAI学習の規定と専門家の指摘
日本の現行の著作権法では、2018年の改正で導入された第30条の4の規定により、AIに文章やイラストなどを著作権者に無断で学習させることが原則として認められている。ただし、著作権者の利益を不当に害する場合には制限される規定もあるが、どのようなケースが該当するかについての明確な線引きは十分に示されていない。
青山学院大学の近藤泰弘名誉教授は日テレNEWS NNNの取材に対し、米国のAI能力が急速な伸びを示している点を評価する一方で、日本の人文学的知識が国内に蓄積されず、海外のAIに吸収されている現状に警鐘を鳴らしている。また、福井健策弁護士はFNNプライムオンラインの取材に対し、AI企業による古本の買い占めが進行すれば、元の資料や既刊本・新刊本が売れにくくなり、作家の生活が成り立たなくなって長期的には文化の種を枯らすことになりかねないと指摘している。

出版業界に広がる波紋と今後の見通し
米国での訴訟や今回の日本国内での取次による販売発覚、さらには古書店での大量注文の連鎖は、生成AIの急速な普及と既存の著作物との関係に大きな波紋を広げている。AIの進化がもたらす利便性と、日本の出版文化や著作者の権利を守るためのルール作りとの間で、今後どのような議論や対応がなされるのか、出版業界および法曹界の動向が注目されている。