ドイツの連邦検察庁は10月6日、同国の外国情報機関である連邦情報局(BND)の元長官アウグスト・ハニング容疑者を、国家機密の漏洩や国家反逆未遂などの疑いで逮捕したと発表しました。冷戦期以降で最大級の国家安全保障上の不祥事とされる今回の事件では、ハニング容疑者のほか、BND関係者の男も同時に身柄を拘束され、当局による捜査が進められています。
元長官アウグスト・ハニング容疑者の逮捕に至る経緯
連邦検察庁によると、80歳になるアウグスト・ハニング容疑者は1998年12月から2005年11月にかけてBNDの長官を務め、その後は連邦内務省の次官として2009年11月まで勤務するなど、ドイツの治安・情報分野で最上位に位置する要職を歴任しました。ハニング容疑者は10月6日の早朝、ミュンスター近郊のノルヴァルデにある自宅で警察によって逮捕されました。
同時刻、バイエルン州では別の場所で男が身柄を拘束されました。検察側によると、この男はマンフレート・D(Manfred D.)として確認されており、プライバシー保護の規定に従ってフルネームは伏せられています。マンフレート・Dは国家反逆未遂およびスパイ行為のほう助などの疑いが持たれており、西部シュタイルフルトなどで捜査が行われました。当局は両容疑者の自宅に加え、ベルリンを含む複数の関連物件を同時に家宅捜索しました。

2000件の機密文書流出と外国情報機関への供与
検察の発表によれば、BND長官としての任期が終了した5年後の2010年頃、ハニング容疑者とマンフレート・Dの間で機密情報を報酬と引き換えに受け渡す取り決めが交わされたとされています。マンフレート・Dは2012年から2026年3月にかけて、BNDの複数の歴代長官のもとで主席補佐官(オフィス・マネージャー)を務め、BND内部の高度な機密情報に常にアクセスできる立場にありました。
マンフレート・Dは長年にわたり、BND内部から持ち出したおよそ2000件にのぼる文書をハニング容疑者側に提供した疑いが持たれています。これらの文書には、BNDの内部利用のみを目的とした機密資料や、連邦首相府(チャラリー)向けの高官レベルのインテリジェンス・ブリーフィング資料などが含まれていました。
連邦検察庁は声明で、「これまでの調査結果によると、マンフレート・Dは長年にわたり」と述べたと、The Guardianおよび各紙は報じている。
ハニング容疑者は、入手した機密情報を自身の民間コンサルタント業務に利用し、外国情報機関の職員向けに分析資料を作成していたほか、別の外国情報機関の代表者に対しても長年にわたって政治関連の情報を共有していたとされています。
ただし、作成された分析資料が目的の相手に実際に渡ったかどうかや、どの国の情報機関を利するためのものであったかについては、検察の声明では明らかにされていません。
政界の反応とロシア関与の否定
ドイツ連邦議会の情報部統制委員会委員長を務めるマルク・ヘンリヒマン氏は、外国の敵対勢力に加担して機密を漏洩させる行為は決して許されないと強調し、「私たちの自由民主主義の敵に味方する者は必ず見つけ出される」と強い姿勢を示しました。また、別のメディア報道では、今回の事件がロシアによるものではないという情報も伝えられています。
野党・緑の党の国会議員で同委員会に所属するコンスタンティン・フォン・ノッツ氏は、疑惑を極めて深刻かつ憂慮すべき事態だと表現し、迅速かつ徹底的な真相究明を求めました。フォン・ノッツ氏はまた、退職した高官や高いセキュリティクリアランスを持つ人物による不透明なロビー活動を以前から批判していたと指摘し、退任後の民間コンサルタント活動を禁止する法整備の必要性を訴えています。

連邦首相府は今回の件についてのコメントを控えています。保全機関を所管する内閣や治安当局にとっても、情報機関の権限強化を進める時期に起きた今回の不祥事は大きな打撃となっており、同盟国とのインテリジェンス協力関係への影響を懸念する声も上がっています。
BNDの内部調査と過去の歴史的スキャンダル
BNDの現職長官であるマルティン・イェーガー氏は、疑惑が浮上した直後に同機関が大規模な内部調査を開始したことを明らかにし、「内部の安全性に関して妥協はあり得ない」と述べています。
ドイツの歴史を振り返ると、今回の事件は西ドイツのヴィリー・ブラント首相の辞任につながった1974年のギュンター・ギヨーム事件(東ドイツのスパイが首相補佐官として長年潜伏していた事件)以来の衝撃的な国家機密漏洩事案として捉えられています。また、1990年には西ドイツの高官が東ドイツのためにスパイ活動を行っていたことが発覚して有罪判決を受けており、ドイツの諜報機関における歴史的な不祥事の系譜に今回のハニング容疑者の逮捕が加わることになりました。BNDの現職長官であるマルティン・イェーガー氏は、疑惑が浮上した直後に同機関が大規模な内部調査を開始したことを明らかにし、「内部の安全性に関して妥協はあり得ない」と述べています。