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2024-06-26 02:00:00
満額回答が相次いだ春闘に続き、夏季賞与(ボーナス)は企業の約4割が前年比増となった。長期にわたるデフレ時代が終焉(しゅうえん)し、インフレ時代が到来するなか、過去の失敗を繰り返さないための新たな資本主義が注目されている。中でも経済同友会は2023年4月に「共助資本主義」を打ち出し、NPOやスタートアップとともに新プロジェクトを次々と立ち上げている。
経済同友会代表幹事でサントリーホールディングス社長でもある新浪剛史氏に、インフレ時代に起こり得る変化と共助資本主義の重要性について聞いた。
(聞き手・Business Insider Japan共同編集長 高阪のぞみ、文・湯田陽子、撮影・伊藤圭)
人手不足で賃金が上がるのは当たり前
撮影:伊藤圭
—— 2023年に始まった賃上げ機運がここへ来て加速しています。
約20年にわたるデフレ下で、日本企業はコストカットに力を注ぎ、社員や非正規雇用の賃金を抑える策をとってきました。
私はローソンの社長だった11年前から、政府の経済財政諮問会議、産業競争力会議、未来投資会議などの場で賃上げが必要だと言い続けています。
経済同友会も同様で、ベースアップでなくてもいいから業績が上がった会社は賃金を上げていこうと動いてきたんです。
それは、このままだと社会が行き詰まってしまうと思ったから。コストカットだけではイノベーションは生まれません。コストカットに長けた人が経営者になり、新しいものを生み出す気概のある経営者が減ってしまうのではという危機感もありました。
—— 賃上げ機運は今後も続くと見ていますか。
2025年は企業の本気度が試される年になるでしょう。企業は本気で賃金を上げようとしているのか。教育・研修も含めて人に本気で投資するのか。
世帯収入は上がってきているものの、まだインフレ率を上回る賃上げにはなっていません。だからこそ、この機運を2025年以降も止めてはいけない。賃金は上がるというノルム(社会通念)を我々企業がつくっていかなければなりません。
—— 若い世代は賃金が上がる時代を経験しておらず、新たなノルムに実感を持てないのではないかと思います。
大前提として言えるのは、日本はいま深刻な人手不足に陥っており、人手不足で賃金が上がるのは当たり前だということです。
これからは、物価が上がれば賃金も上がるという循環を生み出していく必要がある。来年だけでなく、恒常的に上がるようにしていきたいと思っています。
—— 中小企業についてはどうでしょうか。
経済の好循環を実現するには、雇用全体の約7割を占める中小企業の賃上げがキーになると思います。
大企業でも賃上げしないと人を引き留めることが難しくなっているので、もともと人材流動性が高かった中小企業間で、より高賃金の企業への人材流出が加速するでしょう。その結果、生産性が高く良い経営をしている企業、端的に言えば持続的に賃上げの原資を生み出せる企業だけが生き残ると思います。
NVIDIAの製品を支えているのは日本の技術
—— 2023年4月の代表幹事就任にあたり「共助資本主義」を打ち出しました。まだ広く浸透していないと感じています。
インフレになり、経済成長する可能性が高まっています。ただ、景気が良くなっている実感はないでしょう。トリクルダウン(利益の再分配)が起きていないからです。その状況で、これまでと同じ資本主義の発想でいいのでしょうか。
もちろん企業にとって、資本主義はイノベーションを生み出す意味で重要です。しかし、これまでの資本主義はWinnerとLoserを生み出し、格差を広げてきた。
アメリカはかつてコミュニティを重視し、助け合う社会でしたが、金融資本主義が台頭して極端な格差が生じました。
日本もそれでいいのかと言うと、やはり私たちはLoserになったとしても挑戦し直せる社会をつくっていくべきだし、助け合う社会をつくっていきたい。それを企業が中心になって構築していこうというのが、共助資本主義です。
—— なぜ「共助」なのでしょうか。
この30年間でさまざまな社会課題が噴出し、公助では解決できなくなっているからです。地域ごとに課題が異なっているため、中央政府では対応し切れないのです。
我々企業が事業で得た利益を元に、NPO、場合によっては地方自治体の皆さんと一緒に社会を良くすることに取り組んでいく。それが社会の安寧につながり、企業の繁栄にもつながるのです。
——「日本らしい資本主義」という意味合いもありますか。
そうですね。私は、日本でGAFAMやNVIDIAのような企業を生み出す必要はないと思っています。世界をリードする企業を、つくれない日本に問題があると考えなくていい。
巨大テック企業、例えばNVIDIAの製品を支えているのは日本の部品や技術ですし、日本の強みはそこにあるわけですから。その強みのベースにあるのが助け合える力なのです。
日本の強さは「助け合える力」にある

撮影:伊藤圭
—— 1980年代後半に新浪さんがアメリカに留学されたとき、日本企業の強みはその企業文化だと思ったと、先日あるカンファレンスでおっしゃっていたのが印象に残っています。
例えば人への敬意や人に迷惑をかけない、こうしたら人が喜ぶのではないかといった細やかな配慮ができるというのが日本企業の「助け合える力」です。
サントリーでアメリカ蒸留酒大手・ビーム社を買収した後に、それが日本人の強みだとつくづく感じました。
些細なことかもしれませんが、そうした配慮の積み重ね、チームワークの上に自動車も不動産もインフラも出来上がっている。
その強みは圧倒的な価値ですし、外国企業にはない企業文化です。世界の企業と差別化できる点はそこで、サントリーのウイスキーブランドが世界で何度となく1位をとっているのもその価値をベースに世界で戦っているからだと思います。
「3.11」の経験が共助の原点
—— 共助資本主義を打ち出した背景には、個人的な経験もあったのですか。
2011年、ローソンの社長時代に起きた、東日本大震災での経験です。
1つは、店舗のあった街そのものがなくなってしまったこと。コミュニティの再生なくして我々のビジネスは成り立ちません。だから、街がなくなったのならもう一度街をつくろう、店舗の人たちと一緒にやろうと全社を挙げて取り組んだのです。
企業ですから企業価値を上げなければいけませんが、そのために何をするのか。根底に流れる理念や意志が重要だと実感しました。
もう1つ印象に残っているのは、当時流れていたサントリーのTVコマーシャル。「上を向いて歩こう」と「見上げてごらん夜の星を」の2バージョンです。あれを見て、被災者の方々が心を打たれていたんです。正直悔しさを感じるほど見事だった。
企業の本性は、危機に直面したときに現れるものです。だからこそ、財務的な数値とは別の、目に見えないバランスシートが極めて重要になってくる。それが共助資本主義で重視している点です。
—— 目に見えない価値がより重視されるようになってきています。一方、業績向上と社会貢献の両立の失敗例としてフランス食品大手ダノン(※)の名前も上がります。これをどう見ていますか。
※ダノンは社会と共存しながら経済成長を追求する企業として知られ、2020年6月には株主総会で圧倒的多数の支持を受け、上場企業で初めて、フランスの会社法に基づく「使命を果たす会社」となった。しかし株価が急落し、翌2021年3月にエマニュエル・ファベール会長兼CEOが解任された。
経営者が信頼を得るには、企業を成長させる力があることが重要です。出だしで利益を出せなければ、やはり経営者としてダメなんです。
でも実績を重ね、この人に任せれば価値が上がると信用されるようになったら、社会還元への投資を増やすこともできます。社会に還元すると実は業績も向上し、社会からの信用度も上がるという認識が広がってくれば、ボードメンバーに提案できるようになる。
その好循環をつくるために、経営者は業績向上と社会貢献の二項対立に悩み続けなければいけません。トレードオフをトレードオンに変えていく。そこが経営の難しいところでもあり、妙味でもあります。経営はサイエンスではなくアートなんです。
静の時代から動の時代に変わった

撮影:伊藤圭
—— 経済同友会では、NPO、スタートアップをはじめ若い世代との協働にも注力しています。豊かな時代に育ったミレニアル・Z世代にとって、新浪さんがおっしゃる「アニマルスピリッツ」(※)はなかなか理解されないかもしれません。次世代のビジネスパーソンに伝えたいことはありますか。
※アニマルスピリッツ:経済学者ケインズが使用した言葉で、一般的には(企業家の)野心的な意欲などと訳される。新浪代表幹事は就任挨拶をはじめ折々に用いている。
デフレの時代は、翌日のモノの値段が下がるから何もしないほうがいいんです。でもインフレの時代は翌日値段が上がるから動かなければなりません。静の時代から動の時代に変わった。それは失敗のリスクが低くなったということでもあります。
だから、挑戦したほうがいいし挑戦できる企業に入ったほうがいいのです。今後、挑戦する企業とそうでない企業の差が大きく開いてきます。
ぜひ若い人たちには“おもろい”企業に入って切磋琢磨していってほしいですね。
#日本からGAFAMは生まれなくていいそれでも賃上げ機運を本物にできるかで未来は決まる経済同友会新浪剛史氏インタビュー #Business #Insider #Japan