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2024-12-04 08:30:00
では、セブン&アイに買収を提案するほどのアリマンタシォン・クシュタールは、どういった企業なのでしょうか。
アリマンタシォン・クシュタールはカナダに本社を置く、1980年創業の会社であり、世界29カ国・地域でコンビニエンスストアやガソリンスタンドを展開するグローバル企業です。主に「Couche-Tard(クシュタール)」というブランドでカナダ国内に展開し、アメリカ及び他の地域では、日本にもかつて存在していた「Circle K(サークルK)」のブランド名で事業展開をしています。
2024年時点で、カナダに2142店舗、アメリカに7131店舗、ヨーロッパに5272店舗の世界各国合計で約1万4500店舗の店舗展開をしています。また、海外ライセンス事業としても2195店舗を展開しています。
2024年4月期におけるクシュタールの売上高は692億ドル(約10.86兆円)、営業利益は38億ドル(約5978億円)でした。同時期のセブン&アイの売上高は約11.5兆円、営業利益は約5342億円です。なので、売上高はセブン&アイ、営業利益はクシュタールが、わずかながら勝っています(図表7)。
ですが、2021年5月のスピードウェイ買収前のセブン&アイの売上高は5.77兆円前後でした。当時は、アリマンタシォン・クシュタールの売上高は約5.78兆円(2020年4月期)だったので、若干ながらもセブン&アイよりも上だったのです。
また、営業利益率で比較すると、セブン&アイは4.7%に対して、アリマンタシォン・クシュタールは5.5%。利益率ではアリマンタシォン・クシュタールに軍配があがっています。
出所:セブン&アイ 有価証券報告書及びアリマンタシォン・クシュタールのanual reportから筆者作成
ここで注目したいのがアリマンタシォン・クシュタールの売上高の構成です(図表8)。同社で最も大きい売上高の割合は、道路輸送燃料収益(Road transportation fuel revenues)、つまり主にガソリンの販売です。実際、アメリカにおけるコンビニ販売の売上高の多くは併設されているガソリンスタンドでの売上なのです。

出所:アリマンタシォン・クシュタールのanual reportから筆者作成
これは、アリマンタシォン・クシュタールだけでなく、セブン&アイのアメリカ子会社である7-Eleven, Inc.にも当てはまります。図表9は、7-Eleven, Inc.の売上高の構成を示したものです。アリマンタシォン・クシュタールより比率は低いものの、売上高の中ではガソリン売上高が多くを占めています。

出所:7-Eleven, Inc.の2024年2月期決算捕捉資料より筆者作成
なぜアリマンタシォン・クシュタールの方が市場では評価されているのか
売上高はセブン&アイが上回り、営業利益はほぼ同水準にも関わらず、なぜアリマンタシォン・クシュタールの方が時価総額が高い——言い換えると、株式市場で評価されているのでしょうか。その主な理由は2つ考えられます。第1はコングロマリットディスカウントです。
コングロマリットディスカウントとは、複数の事業を行うことで、それぞれの事業価値を合計した企業価値よりも、企業価値が下がってしまう現象のことを言います(図表10)。

出所:Business Insider Japan「ビジネス・インサイダー 商社、ソフトバンクG、ソニー…多角化企業はなぜ株式市場に低く評価されてしまうのか【バフェットと5大商社・中編】」から流用
例えば、セブン&アイはフランチャイズをベースとした国内コンビニ事業、アメリカではガソリン収益と自前を軸にしたコンビニ事業、さらには金融事業やスーパー事業等多数の事業を行っています。
一方で、アリマンタシォン・クシュタールは北米を軸にコンビニエンス事業とガソリン事業を行っています。これら事業構成を比較した場合、アリマンタシォン・クシュタールの方がリソースの配分が効率的だと考えられます。
もう1つは事業の成長機会です。セブン&アイは売上高自体は図表5で見たように伸びていますが、この要因はアメリカのコンビニ事業であり、国内コンビニ事業とその他スーパーマーケット事業等は縮小傾向にあります。
このような状況の中、日本国内での成長があまり期待できないことが、北米を軸に事業を展開しているアリマンタシォン・クシュタールよりも低い評価になっていることが考えられます。
セブン&アイの買収価格を実現する価値とは
「潜在的な株主価値の実現のため、全ての選択肢を客観的に検討している」
これは、セブン&アイへのMBOが公表された際に、リリース文に書かれていた内容で、セブン&アイの特別委員会委員長及び取締役会議長であるスティーブン・ヘイズ・デイカス氏による発言です。
現在セブン&アイへのMBOの買収価格は9兆円にものぼると報道されています。これはどれぐらいの金額なのでしょうか。アリマンタシォン・クシュタールによるTOBが提案された8月19日の1営業日前の8月16日時点のセブン&アイの時価総額は4兆5866億円でした。この時点でのPERは28.03倍です。翌日、TOB提案がなされた日には、時価総額は5兆6284億と、1兆円以上も上がり、PERも34.4倍にもなりました。
そして、11月13日に伊藤興業によるMBO提案が発表された際には、時価総額は6兆4853億とさらにあがり、PERは39.64倍とかなり高い水準圏になっています。
さらに経営陣によるMBOでは9兆円にも上ると報道されていて、PERで計算すると、55倍にもなり、成長著しいメガベンチャーのような高いPERとなっています。(図表11)。

出所:IRバンクより筆者作成
仮にセブン&アイの経営陣がMBOを達成できたとして、9兆円もの買収額に見合う投資リターンを得ることはできるのでしょうか。
筆者はその鍵がセブン&アイのポートフォリオの利益率にあると考えています。図表12は、セブン&アイの2024年2月期における事業ごとの利益率を比較したものです。

出所:セブン&アイ 有価証券報告書から筆者作成
先述したように、セブン&アイの利益率は4.7%ですが、それぞれの事業における利益率はかなり異なります。実際、国内コンビニ利益率は27.2%、金融関連事業は18.4%とかなり高い水準となっています。一方で、最も売上高の大きい海外コンビニ事業は3.5%、縮小傾向になるスーパーストア事業は0.9%と平均を大きく下回っています。
海外コンビニ事業は売上高の7割以上を占めています。これら売上高から得られる利益率が3.5%と低いため、セブン&アイの利益率は全体として低くなっているのです。
筆者はこの点に、セブン&アイの潜在的な株主価値の実現が隠れていると考えています。そもそもなぜ国内コンビニはこれほどまでに利益率が高いのでしょうか。アリマンタシォン・クシュタールの営業利益率は5.5%であることから、セブン&アイの海外コンビニより高いものの、国内コンビニとは大きな差があります。
セブン&アイの国内コンビニの利益率が高い大きな理由の一つはフランチャイズというビジネスモデルの仕組みになります。つまり、自社運営ではなく、フランチャイズを通じて規模の経済を活かして効率的に事業を運営できているのです。他方、海外コンビニ事業の利益率が低いのは多くが自社運営になっているからです。
国内コンビニ事業のようにフランチャイズを軸に、海外コンビニ事業の営業利益率を高めることができた場合、セブン&アイはより高い株主価値を実現できる可能性があります。この方向性は、主に自社運営で事業を展開しているアリマンタシォン・クシュタールとも大きく異なることになります。
セブン&アイの創業家はMBOを実現するために資金調達にも奔走しています。報道によるとMBOを検討している創業家は、主力の三井住友銀行など3メガバンクに加えて、三井住友信託銀、りそな銀にも融資の要請をしたとのことです。
9兆円ものMBOは日本における過去最大規模です。今回の買収がどうなるかで、我々の生活にも深く浸透している日本のコンビニのあり方にも大きな影響がありそうです。引き続きセブン&アイの動向から目が離せません。
村上 茂久:株式会社ファインディールズ代表取締役、GOB Incubation Partners株式会社フェロー。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。跡見学園女子大学兼任講師。経済学研究科の大学院(修士課程)を修了後、金融機関でストラクチャードファイナンス業務を中心に、証券化、不動産投資、不良債権投資、プロジェクトファイナンス、ファンド投資業務等に従事する。2018年9月よりGOB Incubation Partners株式会社のCFOとして新規事業の開発及び起業の支援等を実施。加えて、複数のスタートアップ企業等の財務や法務等の支援も手掛ける。2021年1月に財務コンサルティング等を行う株式会社ファインディールズを創業。著書に『決算書ナゾトキトレーニング』『一歩先の企業・株価分析ができる マンガでわかる 決算書ナゾトキトレーニング』(ともにPHP研究所)、『決算分析の地図 財務3表だけではつかめないビジネスモデルを視る技術』(ソシム)がある。
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