グアテマラ北部のサン・バルトロ・シュルトゥン遺跡にある「構造物10K-2」の壁面から、マヤ文明の数学者である「Sak Tahn Waax(サク・タン・ワックス)」、すなわち「ホワイト・チェステッド・フォックス(White-chested Fox)」の名前が特定されました。グアテマラ文化省のルイス・メンデス大臣は、この発見が「完全な数学的・天文学的公式」に基づくものであり、マヤ古典期における個人の業績として初めて特定された例であると発表しました。
シュルトゥン遺跡と「構造物10K-2」の発見
シュルトゥン(Xultun)は、有名な古代都市ティカルから北東へ約25マイル(約40キロメートル)に位置する古代マヤの都市です。この遺跡は250年から900年までのマヤ古典期に繁栄し、総面積は6平方マイル以上に及びます。1915年に報告されて以来、本格的な発掘調査は2008年までほとんど行われてきませんでした。MITの考古学者であり、本研究の筆頭著者であるフランコ・ロッシ氏は、「ここは誰も聞いたことがないような巨大な遺跡の一つです」と述べています。

研究チームは、2011年に発掘された「構造物10K-2」の小さな部屋の壁面から、50以上の数学的・天文学的な「マイクロテキスト」を発見しました。これらは日付や数字、計算を記した短い碑文です。研究チームは、この部屋が8世紀中頃に写本(コデックス)を作成していた書記たちの作業場であったと考えています。
「テキスト19」に刻まれた数学的公式
今回注目されたのは「テキスト19」と呼ばれる一連のヒエログリフです。このテキストは、壁の東側にある大きなヒエログリフ群の下に位置していました。ロッシ氏は、画像処理ソフトウェアを使用して陰影や色を調整する作業を繰り返す中で、偶然にもこの名前を特定するに至りました。

スキッドモア大学の考古学者ヘザー・ハースト氏らは、7月14日に学術誌『Antiquity』に掲載された研究論文の中で、このテキストが複数の暦法システム間の関係を表現していると分析しています。これらの計算は、王の即位などの重要なイベントの時期を決定するために使用された天文学的カレンダーに基づいています。
匿名性からの脱却:個人の署名が意味するもの
マヤ古典期は建築、都市計画、芸術、文字、数学、天文学において飛躍的な進歩を遂げた文明の黄金期とされています。しかし、これまで天文学や数学の分野で、具体的な個々の学者の名前が特定されることはありませんでした。MITのフランコ・ロッシ氏は、「彩色された陶器や彫刻された記念碑には芸術家や彫刻家の署名が確認されてきましたが、計算による時間計測を担った学者は匿名性のままでした」と指摘しています。


グアテマラ文化省によると、この発見は「50以上の数学的・天文学的マイクロテキスト」のエピグラフィック分析(碑文解読)によって可能となりました。メンデス大臣は、これがマヤ古典期に属する数学者に起因する唯一の業績であると強調しています。今回の発見により、マヤ文明において複雑な数値計算や天文学的サイクルを解明していたのは、単なる集団ではなく、Sak Tahn Waaxのような個々の天才的な知性であったことが示唆されます。
研究者たちは、この数学的知識がかつて公共の場で披露されていたと考えています。碑文や壁画、儀式の供物から得られた証拠は、当時のマヤ社会において、これらの計算結果が天体イベントと連動させる形で公的に提示されていたことを示しています。それは単なる記録にとどまらず、複雑な天文学的理解に基づいた「知識のパフォーマンス」であったと言えるでしょう。
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