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一生に一度は見たい「グレートウェイブ」は現実にありえない表現だらけ(太田記念美術館) | Business Insider Japan

連載一生に一度は見たい東京美術案内矢印葛飾北斎 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(太田記念美術館)提供:太田記念美術館太田記念美術館は東京のJR山手線・原宿駅から徒歩5分。とても便利な場所にある。同美術館は数多くの浮世絵を所蔵し、公開している。また、個人コレクターや美術館から借りてきた浮世絵も展観する。葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」は同美術館のコレクションだ。神奈川沖浪裏は海外では「グレートウェイブ」と呼ばれている。そして、英語の呼び方にあるように、大きな波を描いた木版画で、冨嶽三十六景のなかでも特に人気が高い。だが、本物の同作品に触れたことのある人は多いとは思えない。さまざまなデザインや映像に展開されているから見たような気になっているかもしれない。しかし、本物の浮世絵はデザイン化されたもの、映像をはるかに超えている。本物を見れば必ず発見がある。そして、印刷や映像では表せない美しい色彩がある。何が何でも一度は見ておくべきだ。さて、繰り返すが、「神奈川沖浪裏」は多色摺りの木版画だ。版画だから、絵師の葛飾北斎がすべてを手がけたものではない。版元、絵師、彫り師、摺り師がワンチームとなって作り上げたものだ。浮世絵はまずプロデューサーの版元が企画する。版元はテーマを決め、絵師をキャスティングし、資金調達から販売までの責任を負う。NHK大河ドラマ『べらぼう』の主人公、蔦屋重三郎がそうだ。そして富嶽三十六景の場合、版元は西村屋与八。与八もまた江戸時代を代表する版元である。版元が選んだ絵師は墨で下絵を描く。下絵を見て版木に彫っていくのが彫師だ。線に沿って輪郭線を彫った版木は「主版(おもはん)」または「墨版」である。多色刷りの場合、版木は一枚ではない。絵師が色指定したものに従い、色ごとに版木を彫る。表と裏を使って彫ったりして、版木の枚数を節約することが多い。仕上げは摺り師だ。摺り師は、一色ずつ色を重ねて摺る。和紙に絵の具を摺り込む際には、「馬連(ばれん)」を用いる。力加減や摺り方によって、色の濃淡やぼかしといった表現を工夫する。初刷りに近いものを見る重要性太田記念美術館の学芸員、日野原健司さんは斯界の権威。つまり、浮世絵のプロだ。彼は作品のどこに注目するのか。日野原さんは言う。「北斎の神奈川沖浪裏は構図の面白さ、あるいは波をいかに描いたのかという写実的な観察力が特長でしょう。同時に、画面をシンプルにまとめ上げる構成力もそうです。さらに、遠くに富士山を置き、手前に波があるという対比と奥行きの面白さがあります。ただ、プロが見る場合、これほど有名な作品ですと見慣れてしまっているというところがある。そこで、ついつい、彫りとか摺りの状態がどれくらいなのか、良いのか悪いのか、というところに目が行ってしまうんです。浮世絵の初刷り枚数は通常、200枚です。この作品ですと人気作でしたから、5000枚あるいは1万枚は摺ったとも言われています。すると、何度も摺っているうちに版木が摩耗してきますからシャープな線がなくなったり、かすれたりしてしまう。同じ神奈川沖浪裏でも、例えば漢字の部分がかすれているものもあるんです。私たちプロはどうしてもそこに目が行ってしまう」日野原さんは数々の浮世絵を見ている。見慣れているから浮世絵の名作だと全体を鑑賞した後、すぐにクオリティが気になるのだろう。確かに、名作でも版が後のものであれば、かすれた箇所が出てくる。摺り師が手を抜いて摺ったバージョンもある。浮世絵という作品を見るのではあればなるべく初摺り、もしくは初摺りに近い作品を見るというのが一つのセオリーになってくる。ただし、浮世絵は西洋のリトグラフ(石版画)やシルクスクリーン作品のようにナンバーが付されているわけではない。どれが初摺りかはすぐには分からない。線のシャープなもの、かすれがないのを選んで見に行くといいのではないか。「現実にはありえない」表現だらけ葛飾北斎 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(太田記念美術館)提供:太田記念美術館日野原さんはもう一つ、見るところを教えてくれた。「北斎の写実性はデフォルメする力と合わさっているから面白いのです。北斎が砕け散る波の瞬間を捉える観察力は『まるでシャッタースピードの速いカメラのようだ』と評されるほどのもの。しかし、よく見ると、波の砕け方は北斎が描いたような怪獣が襲いかかるような形状ではないのです。また、波の裏側に描かれた縞模様は、実際の波にはありえない表現です。これは、波が回転し巻き込む動きを視覚的に分かりやすく伝えたもので、鑑賞する人の目を波の中心へと誘導するため意図的な演出でしょう。さらに、盛り上がった波と手前の波が同時に存在することもありえない。もっと言えば神奈川沖とは東京湾のなかですから、これほど巨大な波が発生することは考えにくい。劇的な効果を狙ったデフォルメがあるから面白いのです」日野原さんの解説もまた劇的だった。聞けば聞くほど面白さが増していくのが日野原解説と言える。さて、わたし自身はこの作品のどこを楽しんだかと言えば、じつは富士山と小舟だ。この作品は「冨嶽三十六景」のなかの一作だ。どうしても富士山を入れなくてはならない作品だ。だが、見る人は誰もがグレートウェイブの形と色彩を評価する。富士山は主役でなくわき役に回っている。そろそろ見終わって帰ろうかという時に初めて「あ、富士山があった」と気づく。そして、波に翻弄される小舟もある。気づいた後に眺めてみると、富士山と小舟は可愛らしい。日本を代表する作品になっている。本作、「神奈川沖浪裏」にはカワイイ表現も入っているのである。世界の人たちのなかにはこの作品を「偉大な絵」として見ているのではなく、「カワイイ マンガ」として見ている人もいるはずだ。館名: 太田記念美術館 所在地:〒150-0001 東京都渋谷区神宮前1-10-10開館時間:午前10時30分~午後5時30分(入館は午後5時まで) 休館日:月曜日・展示替期間・年末年始 ※月曜日が祝日の場合、翌火曜日 サイトURL:https://www.ukiyoe-ota-muse.jp/ 「神奈川沖浪裏」は2025年7月26日(土)~8月24日(日)に展示予定。一生に一度は見たい「行列ができる国宝」(根津美術館) | Business Insider Japan一生に一度は見比べたい「2つの燕子花」(根津美術館) | Business Insider Japan一生に一度は見たい「儚い金屏風」(根津美術館) | Business Insider Japan一生に一度は見たいモネ「睡蓮より推したい」作品(国立西洋美術館) | Business Insider Japan一生に一度は見たい「フェルメール・ブルー」(国立西洋美術館) | Business Insider Japan #一生に一度は見たいグレートウェイブは現実にありえない表現だらけ太田記念美術館 #Business #Insider #Japan

一生に一度は見たい「グレートウェイブ」は現実にありえない表現だらけ(太田記念美術館) | Business Insider Japan

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2025-06-06 12:00:00

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一生に一度は見たい東京美術案内

矢印

葛飾北斎 冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏(太田記念美術館)
提供:太田記念美術館

太田記念美術館は東京のJR山手線・原宿駅から徒歩5分。とても便利な場所にある。同美術館は数多くの浮世絵を所蔵し、公開している。また、個人コレクターや美術館から借りてきた浮世絵も展観する。

葛飾北斎の浮世絵「神奈川沖浪裏」は同美術館のコレクションだ。神奈川沖浪裏は海外では「グレートウェイブ」と呼ばれている。そして、英語の呼び方にあるように、大きな波を描いた木版画で、冨嶽三十六景のなかでも特に人気が高い。

だが、本物の同作品に触れたことのある人は多いとは思えない。さまざまなデザインや映像に展開されているから見たような気になっているかもしれない。しかし、本物の浮世絵はデザイン化されたもの、映像をはるかに超えている。

本物を見れば必ず発見がある。そして、印刷や映像では表せない美しい色彩がある。何が何でも一度は見ておくべきだ。

さて、繰り返すが、「神奈川沖浪裏」は多色摺りの木版画だ。版画だから、絵師の葛飾北斎がすべてを手がけたものではない。版元、絵師、彫り師、摺り師がワンチームとなって作り上げたものだ。

浮世絵はまずプロデューサーの版元が企画する。版元はテーマを決め、絵師をキャスティングし、資金調達から販売までの責任を負う。NHK大河ドラマ『べらぼう』の主人公、蔦屋重三郎がそうだ。そして富嶽三十六景の場合、版元は西村屋与八。与八もまた江戸時代を代表する版元である。

版元が選んだ絵師は墨で下絵を描く。下絵を見て版木に彫っていくのが彫師だ。線に沿って輪郭線を彫った版木は「主版(おもはん)」または「墨版」である。多色刷りの場合、版木は一枚ではない。絵師が色指定したものに従い、色ごとに版木を彫る。表と裏を使って彫ったりして、版木の枚数を節約することが多い。

仕上げは摺り師だ。摺り師は、一色ずつ色を重ねて摺る。和紙に絵の具を摺り込む際には、「馬連(ばれん)」を用いる。力加減や摺り方によって、色の濃淡やぼかしといった表現を工夫する。

初刷りに近いものを見る重要性

太田記念美術館の学芸員、日野原健司さんは斯界の権威。つまり、浮世絵のプロだ。彼は作品のどこに注目するのか。日野原さんは言う。

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執筆者について: nipponese

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